【NQN香港=川上宗馬】中国電子商取引(EC)最大手のアリババ集団が7日に、香港の代表的な株価指数のハンセン指数に組み入れられる。3日の米株式相場の急落が波及し、4日の香港市場でアリババ株は一時6.7%安となったが、それでも3月に付けた年初来安値からの上昇率は6割近くに達する。ただ、足元では米国による中国ハイテク企業への制裁強化や国境紛争を巡る中印対立などへの懸念が強まっており、株高基調を維持できるか視界は晴れない。
※ハンセン指数(黄緑)とアリババの株価(白)
新型コロナウイルス禍以前の水準回復を前に足踏みしていたアリババの株価が、上昇基調を強めたのは5月下旬からだ。ハンセン指数への採用を見込んだ先回り買いや、重複上場する米国でのハイテク株高、さらに巨額の資金調達が見込める金融子会社アント・グループの新規株式公開(IPO)計画発表など好材料が重なった。
■指数採用の追い風
恒生指数(ハンセン・インデックス)社は5月18日に、議決権の数が異なる種類株を発行する企業などについて、同社の主要な指数への採用を認めると発表した。市場では種類株発行企業であるアリババなどを念頭に置いた措置だと受け止められ、機関投資家などからの一段の資金流入を期待した買いが入った。恒生指数社は8月14日に、アリババやスマートフォンの小米(シャオミ)など3銘柄を9月7日からハンセン指数に組み入れると発表した。
「指数採用」効果はハンセン指数だけにとどまらない。7月27日にはアリババや中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント)など、香港上場の主要ハイテク30社で構成する「ハンセンテック指数」の算出・公表が始まった。ハイテク株人気にあやかろうと、8月下旬以降に運用会社が競うようにテック指数連動型ETFを投入している。
第1号となった南方東英(CSOP)アセット・マネジメントによる「CSOPハンセンテック指数ETF」は、上場から4営業日で資産総額が当初設定の19倍の33億香港ドル超に膨れ上がるほどの人気となった。9月4日までにすでに3つの連動ETFが組成されている。今後も複数の運用会社がテック指数連動のETFを計画しているもようで、アリババ株にも資金流入が続く見通しだ。
■次の買い材料は・・・
アリババが8月に発表した2020年4~6月期決算は、売上高が前年同期比34%増の1537億元、純利益は2.2倍の475億元と、ともに市場予想を大きく上回った。発表後には証券会社による目標株価の引き上げが相次いだ。傘下のアント・グループが計画する香港と上海市場での重複上場では、複数のメディアによると上場時の時価総額は2000億米ドル以上を目指しているもようだ。アリババは8月時点でアント株の33%を保有している。
だが、これまで続いてきた「追い風」は、折しもハンセン指数への組み入れを機に「好材料出尽くし」に転じかねない。香港の証券会社、UOBケイヒアンの梁偉源エグゼクティブディレクターは「これまで株価を押し上げてきた指数連動の資金流入や、アントのIPOを期待した買いは短期的なものにとどまるだろう」と指摘する。
実際、足元の株価は米政権による中国ハイテク企業への制裁措置や、国境付近での軍事衝突をきっかけとした中印間の対立激化が重荷となっている。
インド政府は2日、中国企業製のアプリに対する追加の禁止措置を発表し、アリババの通販アプリ「淘宝網(タオバオ)」やアントの決済サービス「支付宝(アリペイ)」も対象とした。アリババ株は昨年11月の上場以来の高値を2日(292.0香港ドル)に付けたばかりだが、3日以降は下げに転じている。「海外事業の業績への影響は小さいが、利益確定売りのきっかけにされた」(梁氏)。
コロナ禍での米ハイテク株高の象徴的な存在だった電気自動車のテスラ(TSLA)が急落するなど、3日の米国市場や4日のアジア市場でハイテク株に利益確定の売りが膨らんでいる。調整が一時的なものに終わるのか、来週は目が離せない状況が続きそうだ。