【日経QUICKニュース(NQN)編集委員 永井洋一】不透明な金融派生商品(デリバティブ)取引が明るみに出たソフトバンクグループ(SBG)の株価がさえない。通信子会社ソフトバンク(SB)株の大型売り出しの最も近い値決め日を9月14日に控え、市場では相反する親子の「顔」に着目したトレードが広がりを見せているという。
■グロース株売り・バリュー株買い
SBGが売り出すSB株は国内外で発行済み株式数の約2割、金額にして1兆2000億円前後に上る。SBの10日午前の終値は12円50銭安の1307円50銭だった。売り出し発表日の8月28日以降、需給緩和を警戒した売りで9%下落した。後場の終値は5円50銭(0.4%)安の1314円50銭だ。
だが、売り出し株への需要は大型売り出しとしては堅調なようだ。米ブルームバーグ通信によれば、投資家に対する需要調査では買い付け希望がすでに予定額に達したという。
ある市場関係者は「海外投資家が市場でSBGを売る一方、SBの売り出し株の確保に動いているようだ」と話す。着想は「顔」の違いだ。アマゾン・ドット・コムなど米国の巨大ハイテク株に投資するSBGはハイテク・グロース(成長)株、かたや配当利回りが年6%を超えるSBはバリュー(割安)株と位置づける投資家が多い。SBGは8月4日の年初来高値(7077円)から10日前引けまでに19%下落した。米ナスダック総合株価指数が高値波乱となる中、グロース株売り・バリュー株買いがソフトバンク親子にも波及した格好だ。
■「需給緩和は避けられそうにない」
こうした取引が日本のバリュー株に光を当て、世界のマネーを呼び込むきっかけになればいいのだが、SBの過去の売り出しを振り返ると、いやな予感は拭えない。2018年12月19日に新規上場した際は、直前に通信障害を引き起こしたり、米中対立が先鋭化したりして初値は公開価格(1500円)割れと散々だった。
今回の売り出し発表後、SBは信用取引が急増した。4日時点で空売りの未決済残高は1835万株。これは1カ月前の30倍強だ。信用買い残は1647万株で4倍強に上る。
空売りは大半が空売り価格と売り出し価格の価格差を狙った投機や保有する現物株のヘッジを目的とした取引と考えられる(通常、株価は売り出し発表後、下落する傾向がある)。そうであれば、空売りした投資家は売り出し株を空売りの決済に回すため、買い戻しは発生しない。「実質的には信用買いだけが積み上がっており、需給緩和は避けられそうにない」と松井証券の窪田朋一郎氏はみる。
SBは上場してから9日までの415日中、公開価格を上回ったのはわずか68日にすぎない。この間の総売買高を発行済み株式数で割った回転率は1.04倍、売買高加重平均株価は1422円だ。含み損を抱えたまま売れずに「塩漬け」としている投資家が多い。安倍晋三首相の後継政権が通信料金の大幅引き下げを迫るようだと、「親子共倒れ」の危険性も排除できなくなる。
<金融用語>
空売りとは
株券を持たず、あるいは、持っていてもそれを使用せずに、他から借りて行う売付けをいう。 空売りは、近い将来に株価が下落すると予想し、現在の株価でいったん売りを出し、値下がりしたところで買い戻して借りた株を返す。この時の差額が利益となる。株価の下落局面でも利益を出せることがメリットとして挙げられる。また、空売りには、株価の下落を狙った投機的なものと、株価下落による所有株の損失を防ぐつなぎ売りの2種類がある。 証券金融会社は、空売りするための株式の調達が困難になった時に、外部から株式を調達する。このときに発生する株式の調達手数料(品貸料)を逆日歩といい、売り方が負担する。