外国為替市場でユーロの上値が重い。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は10日の記者会見で足元のユーロ高に明確なけん制をしなかったものの、その後のユーロ買いの勢いは続かなかった。英国の欧州連合(EU)離脱問題の再燃と11月に米大統領選を控えた政治リスクが引き続きユーロの上値を抑えている。
※ユーロの対ドル相場
■けん制ではないものの
ECBは10日の理事会でこれまでの金融政策の維持を決めた。9月に入り一時1ユーロ=1.20ドルの節目を超えて2年4カ月ぶりの高値を付けたとあって、市場の関心はラガルド氏がユーロ高にどう言及するかに集まっていた。記者会見でラガルド氏は「為替相場は政策目標ではないし、水準にはコメントしない」と述べた一方で「ユーロの上昇は物価に悪影響を及ぼす」とし、「注意深く見守っていく」とした。
クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司氏は「強いけん制ではないものの、野放図なユーロ高には警戒を示し、うまくかわした印象だ」と評価する。市場は想定ほどハト派ではないとの受け止めからユーロ買いが入り一時1.19ドルを上回ったものの、勢いは続かなかった。むしろその後は円やドルに対してユーロ売りが出た。
その一因が英国のEU離脱問題だ。EUの欧州委員会は10日、発効済みのEUとの離脱協定の一部を修正する内容を含む英国の国内法案を9月末までに撤回するよう英政府に要求。英政府は「議会には主権があり、国際条約に抵触する法律も可決できる」と反論した。混迷する離脱交渉への警戒からポンドにつられてユーロにも売りが出た格好だ。
ジョンソン英首相は7日付の声明で、10月15日のEU首脳会議までの通商交渉で合意できなければ、決裂を判断すると明言している。そのため、「情勢が不透明ななかではユーロは買いにくい」(斎藤氏)との声が漏れ始めている。
■政治要因も無視できず
さらに11月には米大統領選を控える。今回のラガルド氏の会見についてSMBC信託銀行プレスティアの二宮圭子氏は「ユーロ高にシグナルを送りつつも、大統領選前に通貨戦争につながりかねない発言は避けた面もあるのではないか」と指摘する。
新型コロナウイルスの感染拡大やこうした「政治の秋」の逆風に対し、ECBが年内に緩和カードを切るとの観測もくすぶる。市場では「ユーロは対ドルで1ユーロ=1.15~1.20ドル、対円で同125~127円で当面落ち着きどころを探る展開になる」(二宮氏)との見立てが目立つ。〔日経QUICKニュース(NQN) 藤田心〕