【日経QUICKニュース(NQN) 松下隆介】外国為替市場で円高への備えが進んでいる。オプション市場では向こう2~3カ月程度の円・ドル相場の変動率(ボラティリティー)がほかの期間と比べ高止まりし、円を買う権利の買いも増えつつある。米大統領選の結果を受けたリスク回避局面を見越した動きだ。
オプション市場で円・ドル相場の予想変動率は2カ月物、3カ月物が8%台前半~半ばの水準にある。6カ月物や9カ月物、1年物といった、より長い期間の変動率よりも高い。2カ月物は9月3日、3カ月物は7月24日から8月4日にかけて跳ね上がり、高止まりしている。
■2~3カ月先に備える
予想変動率の上昇は円高、円安どちらにも大きく傾く可能性があることを示すため、市場参加者の相場観はわからない。ただ、円を買う権利と売る権利の需給の偏りを示す「リスクリバーサル」をあわせてみると、円高リスクへの警戒感の強さが浮き彫りになる。
たとえば、2カ月物のリスクリバーサルは15日時点でマイナス2%と、約3カ月ぶりのマイナス幅となった。リスクリバーサルはマイナス幅が深いほど円の先高観が強いことを示す。2カ月物と1カ月物の差が14日に17年4月以来の水準まで拡大するなど、2~3カ月先の円高に備える動きが顕著に表れている。
11月に控える米大統領選への警戒感が背景だ。米世論調査では、民主党のバイデン前副大統領の優位が続く。バイデン氏は法人税率の引き下げなど、企業やリスク資産に厳しい政策を掲げる。「『リスクオン』相場が続くと見込むが、バイデン氏の勝利に加え上院、下院も民主党が制するようだと株安シナリオに修正せざるを得ない」(国内銀行の為替担当者)との声がある。
結果を受けて株価が下落すれば、「低リスク通貨」とされる円は買われやすくなる。米バンク・オブ・アメリカが前週末にまとめたグローバル為替金利センチメント調査によると、米大統領選に向けた「最良のトレード」として多くの市場参加者が挙げたのは「米国株ショート(売り)」や「ドルショート」だった。オプション市場での動きは、こうした米大統領選後のリスク回避局面への備えといえる。
米連邦準備理事会(FRB)は16日まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、少なくとも2023年末までゼロ金利政策を維持する方針を示した。ドル売りの長期化が見込まれるなか、足元では受け皿となっていたユーロの上昇に一服感も出ている。「ドル売りトレンドの中で、ユーロと比べ買い遅れていた円にマネーが向かう可能性は十分ある」(あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジスト)
■102円試す?
1ドル=105円ちょうどの心理的な節目を前に、伸び悩む場面が多い円相場。ただ、明確な円の売り材料が見当たらないことも確か。
「円を売ってドルを買い上げていく主体はいない。100円を突破するほどの円高は見込んでいないが、米大統領選を巡る不確実性の高まりを理由に、102~103円を試す局面はありそうだ」(バンク・オブ・アメリカの山田修輔・日本主席FX・株式ストラテジスト)との声も出ている。
<金融用語>
リスクリバーサルとは
通貨オプション戦略の一種で、満期日、想定元本、デルタの絶対値が同一であるアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)のコール(権利行使価格が原資産価格を上回っている状態)とOTMのプット(権利行使価格が原資産価格を下回っている状態)のオプションを同時に反対売買する取引。 理論上、オプション価格であるプレミアムは、満期日、想定元本、デルタなどの条件が同じ場合は同一になるはずだが、実際には需給や将来の変動率を予測したインプライド・ボラティリティーを反映してコールとプットのプレミアムに差が生じる。その差が相場が上下どちらの方向へ変動するかリスク認識の偏りとされ、市場参加者の相場観となる。 一般的に、満期日=1ヵ月、デルタ=25%を標準として算出したリスク・リバーサルが、市場参加者のリスク認識を反映する指標として用いられている。