【日経QUICKニュース(NQN) 藤田心】外国為替市場で円相場の動きが鈍い。新型コロナウイルスの感染拡大で今年3月に円相場も大きく動いた。それでも安値と高値の差である「値幅」は今年に入ってここまで11円にとどまる。米国のゼロ金利政策により日米金利差が縮小したのが、値幅の小ささの背景にある。4年前に相場を大きく動かした米大統領選を11月に控えるが、市場参加者の間では「年内の安値と高値はすでに付けた」との声もある。
米国の景気拡大を背景に2月下旬に1ドル=112円23銭まで下落した円は、3月になって101円18銭と3年5カ月ぶりの高値へ急伸した。コロナ禍の深刻さが日に日に高まるなかで、リスク回避の円買いが集まったためだ。
■続かぬ相場の勢い
世界の政策当局は矢継ぎ早の経済対策に乗り出した。米国の米連邦準備理事会(FRB)は大胆な金融緩和に打って出て、そこから金融・資本市場の混乱は収束へ向かった。日米金利差が縮小し、円相場は次第に膠着感を強めた。この結果、2月の安値と3月の高値がそのまま現時点での今年の安値と高値になっている。
今年ここまでの値幅は過去最少だった19年の8円30銭からは広がっているものの、ここ数年続いた10円前後の幅にとどまっている。FRBは今月16日までの米連邦公開市場委員会(FOMC)でゼロ金利政策の長期化を示唆した。17日の海外市場では104円53銭近辺と1カ月半ぶりの高値を付けたものの、18日の東京市場では円売りが優勢になるなど、9月のFOMCを巡っても相場の勢いは続かない。
日米金利差の縮小で円ドル取引の手掛かりはますます乏しくなっている。市場では「金利に軸足を置いて考えると、年内の高値と安値はもう確認された可能性が高い」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏)との声があがる。
■大統領選の年は・・・
それでも11月の米大統領選に身構える投資家は少なくない。前回大統領選があった16年の年間値幅は22円70銭に広がった。オプション市場からみた向こう2~3カ月の円・ドル相場の変動率(ボラティリティー)は他の期間に比べ高止まりしている。株式など他市場で混乱が起きると円に買いが集まりやすいため、「為替市場のなかで他の通貨ペアと比較しても、円ドルの取引参加者が最も身構えている」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏)との指摘があった。
大統領選ではバイデン氏とトランプ氏のどちらが勝つかはまだ読みづらい。選挙前から世論調査の結果などで円相場が短期間で上下に振れかねない。選挙後も政治空白が生じるリスクが残る。JPモルガンの佐々木氏は「年内はドル安基調のなかで101~106円での動きを想定しているが、大統領選の結果や混乱次第で今年の高値を更新することもあり得る」と話す。
どちらが勝っても、米国の新政権の政策が固まるのは年明け以降で、そこまで円相場に大きなトレンドは出にくいとの予想もある。現時点では「トランプ氏勝利なら株高、バイデン氏なら株安」という認識が広がっているが、「バイデン氏も金融市場へのサポートがゼロではないだろう。(現在0.7%程度の)米長期金利が今年3月に付けた0.3%を割り込むのは想定しにくい」(三菱モルガンの植野氏)との見方もある。大統領選に向けて波乱の可能性は残るものの、20年の円相場は結局、小幅な動きにとどまるかもしれない。