ユーロが対ドルで軟調に推移している。9月22日の外国為替市場では一時1ユーロ=1.1692ドルと7月下旬以来の低水準をつけた。欧州や英国で新型コロナウイルスの感染者数が再び増加し、欧州景気の早期回復を前提としたユーロ高・ドル安のシナリオが崩れつつある。
■感染抑制策を再強化
欧州では新型コロナの感染を防ぐための経済活動の制限が再び強まっている。スペインは首都マドリードの一部で外出制限を21日に再開。英政府も22日、パブやレストランの営業を制限し、在宅勤務を奨励するなど感染抑制策を再び強化することを決めた。英国のジョンソン首相は再強化策が「6カ月続くこともありうる」と述べた。新型コロナの感染拡大が、持ち直し軌道にあった欧州経済の下振れリスクになるとの警戒感が強まった。
ユーロは対ドルで9月に一時1ユーロ=1.2000ドル台まで上昇していた。米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和策に加え、7500億ユーロに達するコロナ復興基金の創設を打ち出し、景気の持ち直しが米国に比べて早まるとの見方がユーロ買いを後押ししていた。そもそも欧州は新型コロナの感染が広がった3~5月に厳しいロックダウン(都市封鎖)を実施したことでその後の感染が米国などに比べて抑えられていた。国際通貨基金(IMF)の6月時点の見通しでは、ユーロ圏の2021年の成長率は6%と、米国(4.5%)や日本(2.4%)を上回っていた。
足元の新型コロナの感染再拡大や経済活動の制限再強化の動きを受けて、こうしたシナリオは見直され始めているようだ。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、8月25日時点で過去最高となっていたユーロの買越高(対ドル)は徐々に減少傾向にある。
■「ユーロ高へのけん制」
欧州中央銀行(ECB)がユーロ高に警戒を強めているとの見方が広がっていることもユーロを買いにくくしている。ECBのラガルド総裁はECB理事会後の会見に続き22日の講演でも「我々はもちろんユーロ高を注意深く見守っている」と述べた。市場では「ユーロ高へのけん制」と受け止められている。世界金融危機後は米国の緩和的な金融政策を受けてユーロ高が進み、欧州圏内の景気の持ち直しの妨げ要因となった。今回も過度のユーロ高は望まないとみられる。
米大統領選など重要が控えており、足元のドル買いがどこまで続くかは不透明だ。一方、欧州景気の早期持ち直しの思惑が後退していることを考えると、これまでのようなユーロ買いの勢いは衰えそう。「そもそも欧州景気は市場が想定するほど底堅くはない。過去にECBがユーロ高への警戒感を示したあとにユーロが大きく下げたことを考えると、2020年末には1ユーロ=1.13ドル台まで下落する」(ユリゾンSLJキャピタル)との予想にも耳を傾ける必要がありそうだ。(NQNニューヨーク 岩本貴子)