【日経QUICKニュース(NQN) 川上純平】国内債券相場の先行きに不安の声が聞こえ始めた。銀行の預金残高と貸出残高の差である「預貸ギャップ」の拡大が急減速しているためだ。銀行による国債投資の原資が伸び悩んでいることを示しており、債券需給が緩むとの懸念が浮上している。
■鈍化する預貸ギャップ
全国銀行協会のデータによれば、全国銀行の総預金から貸出金を差し引いた預貸ギャップは8月末時点で290兆円と、昨年末の251兆円から40兆円弱拡大した。大幅な伸びとなったが、問題はその拡大ペースが足元で鈍化していることにある。昨年末から今年5月末にかけて36兆円ほど増えた一方で、6~8月は3兆円の伸びにとどまった。
※全国銀行協会の資料より
預貸ギャップが5月末にかけて拡大したのは、新型コロナウイルスの感染拡大により企業や家計が先行き不透明感から守りの姿勢を強めたためだ。各種給付金なども配られ、預金残高が大きく伸びた。貸し出しは企業の運転資金向けなどで需要が強かったが、預金残高ほどは増えなかった。
※同上
■国債の購入減資
足元では政府による家計支援が一巡しており「今後、預貸ギャップが大きく変動する可能性は低くなっている」(JPモルガン証券の山脇貴史氏)。日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査によれば、資金繰りが「楽である」と答えた企業の割合から「苦しい」の割合を引いた資金繰り判断DIは全規模合計で「5」と6月調査から2ポイント改善した。政府の実質無利子・無担保融資が奏功しており、目先の貸し出し需要の急激な伸びは見込みにくくなっている。
銀行は預金を日銀の当座預金に置いておくと、一部に0.1%のマイナス金利が適用され収益が圧迫される。銀行が国債に資金を振り向ける流れは変わらないにしても、その原資が増えなければ買いの手が鈍り「債券相場の重荷となる可能性がある」(JPモルガン証券の山脇氏)。
冬場を迎えてコロナの感染者数が大きく増えることになれば、企業や家計は防衛意識を強めて一段と預金を積み増す可能性はある。2日の債券市場はトランプ米大統領の新型コロナ感染が伝わっても大きな混乱は生じなかったが、債券需給を占う意味でも今後の預貸ギャップの推移には注目が集まりそうだ。