【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾】スイスフラン高に拍車がかかるのではないか。外国為替市場ではそのような見方が広がっている。きっかけは前月末のスイス国立銀行(中央銀行)による為替介入の規模公表だ。新型コロナウイルスの感染拡大以降、資金の逃避先として注目されたフランは大幅に上昇。自国通貨高を抑えるために大規模な為替介入を実行したスイス中銀だが、今回の公表で米国から「為替操作国」に認定されるリスクが高まっている。市場の声を意識したスイス中銀が今後、為替介入に消極的になる可能性も示唆されている。
■安全通貨
前週末の東京外国為替市場でスイスフランは対ドルで1ドル=0.92フラン近辺で推移していた。新型コロナの感染拡大で、スイスフランが買われる地合いが続く。経常黒字体質で永世中立国でもあるスイスのフランは円と同様に「安全通貨」とみなされており、世界経済の先行き不透明感が強まる中で逃避マネーが流入した。8月末には一時0.8997フランと、15年1月以来、5年7カ月ぶりの高値水準まで上昇。その後はやや伸び悩んだものの、依然として高値圏での推移を続けている。
スイスにとって自国通貨高は経済成長の足かせだ。時計や医薬品をユーロ圏や米国に輸出しているスイスは輸出依存度が高い。自国通貨高を抑制するためにスイス中銀は積極的な為替介入を実施することで知られている。振り返れば欧州債務危機の11年には無制限のスイスフラン売り・ユーロ買いに踏み切ったことも話題となった。新型コロナ禍での自国通貨高でも為替介入による対応を迫られていた。
■高水準の介入額
スイス中銀は9月30日、20年上期の為替介入の実績を公表した。介入規模は900億フラン(約980億ドル)となったことが判明。年間の為替介入の規模と比較しても、年間1880億フランの介入規模だった12年以来の高水準となっている。今回は1~3月(385億フラン)、4~6月(515億フラン)の介入規模が明らかになったが、四半期ベースでの公表は今回が初めてだった。
米財務省は今年1月、為替報告書でスイスを為替操作国の「監視リスト」に入れており、米国からけん制を受けていた。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「米国にとってスイスは主な貿易赤字国であるため、今回の介入規模公表で米国がスイスを為替操作国に認定する可能性は否めない」と指摘する。上野氏は、為替操作国に認定されれば、スイスは為替介入に踏み切りにくくなり、フラン高が加速するとみている。
金融政策面での制約もある。マイナス金利の深堀り余地が少なく、フラン高の要因になるとの指摘もある。現在のスイスの政策金利は世界でも最低水準のマイナス0.75%だ。野村証券の春井真也氏は「金融機関の収益懸念からマイナス金利の深掘り余地が小さくなっており、金利面での自国通貨高の抑制も見込めなくなっている」と分析している。