10月7日の米国債市場で長期債相場は反落し、長期金利の指標となる10年物国債利回りは前日比0.05%高い(価格は安い)0.78%で終えた。6日午後に追加経済対策の協議休止を表明したトランプ米大統領が夜になって態度を一転し、中小企業向けなど限定的な経済支援策の早期成立を議会に求めた。投資家のリスク回避姿勢が和らぎ米国債は売られたが、米連邦準備理事会(FRB)による今後の資産購入の拡大が相場を支えるとの見方も根強く、積極的な売りは限られた。
■トランプ氏が主張修正
トランプ氏は6日夜、ツイッターに立て続けに投稿した。航空会社への給与補填策と中小企業の雇用支援に加え、家計への現金給付を議会に求めた。心情変化の理由は不明だが、「協議休止を独断で決めたトランプ氏を追及する報道が目立ち、支持率低下を恐れた可能性がある」(FHNファイナンシャル)。そもそも「株安を招きかねない協議休止をわざわざ明確に示すという決定の方が不思議な選択だった」(RBCキャピタル・マーケッツ)との意見も多く、トランプ氏の主張の修正はひとまず投資家のリスク回避姿勢を和らげた。
■FRBの思惑
FRBが午後に公表した前回9月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨も債券売りを促した。FRBは「追加の財政出動が遅れれば景気回復のペースも鈍る」と議会に経済対策の早期実現を求めた。市場で注目された量的金融緩和の拡充を巡る議論については、数人の参加者が「今後の会合で資産購入プログラムを点検するのが適切だ」と述べたことが明らかになった。ただ、キャピタル・エコノミクスのポール・アシュワース氏は資産購入額の拡大の可能性についての真剣な議論はなかったとし、「やや『タカ派』な内容」と分析する。
■「そう単純ではない」10年債利回り
このところ上昇基調にある10年債利回りは7日に一時0.79%と前日に付けたほぼ4カ月ぶりの高水準に並んだ。最近の世論調査を受けて11月の米大統領選と米議会上下院選のすべてを民主党が制する可能性が意識されている。大型の財政出動に前向きな民主党が勝てば国債増発が加速し、需給が悪化するとの連想が10年債利回りを押し上げている。
もっとも、TD証券のプリヤ・ミズラ氏は「話はそう単純ではない」と話す。国債増発で悪化する需給を、FRBが来年にかけて国債購入額を増やすことで補うとみるためだ。最近は映画・娯楽大手のウォルト・ディズニーなど米企業の人員削減が相次ぐ。追加の経済対策が実現しても景気の回復が市場が想定するより遅れる可能性も意識されており、相場を支えるとみる。実際、7日実施の10年債入札は応札倍率が前回から上昇し、この利回り水準では底堅い米国債需要があることを示した。
キャピタル・エコノミクスのアシュワース氏は「最近の10年債利回りの上昇はFRBがフォワード・ガイダンス(政策指針)だけに頼れないことを改めて示した」と指摘する。市場の関心はいまのところ経済対策に集中しているが、利回りの上昇が続くようなら、FRBによる資産購入の早期拡大の思惑が急速に高まる可能性も認識しておいた方がよさそうだ。(NQNニューヨーク 川内資子)
<金融用語>
米連邦公開市場委員会(FOMC)とは
Federal Open Market Committeeの略称で和訳は米国連邦公開市場委員会。米国の金融政策の一つである公開市場操作(国債買いオペなどを通じて金融機関の資金需給を調節すること)の方針を決定する委員会のこと。FRSの構成機関である。 FOMCは、米国の中央銀行ともいうべき米連邦準備理事会(FRB)が開く会合で、FRBの理事や地区ごとの連邦準備銀行総裁で構成されており、米国の金融政策やフェデラルファンド(FF)レートの誘導目標を決定する最高意思決定機関である。約6週間ごとに年8回、定期的に開催される他、必要に応じて随時開催される。 声明文は、FOMC開催最終日(米東部標準時間午後2時15分頃)に公表、議事要旨は政策決定日(FOMC開催最終日)の3週間後に公表され、米国の金融政策を占ううえで市場関係者の関心が高い。