【NQNニューヨーク 岩本貴子】10月8日の米債券市場で長期金利の指標となる10年債利回りは前日比横ばいの0.78%で取引を終えた。労働市場を中心に米景気の先行きへの懸念が根強い一方、大規模な財政支出のための国債増発への警戒も強かった。国債増発による需給懸念と米連邦準備理事会(FRB)の低金利政策への期待が交錯するなか、債券相場のボラティリティー(予想変動率)も徐々に上昇しつつある。
■民主党勝利で財政支出拡大は必至
7日夜に行われた米大統領選の副大統領候補によるテレビ討論会は「大統領選や上院の議会選挙で民主党優位という見方を変えることにはならなかった」(BMOキャピタル・マーケッツ)。
民主党の大統領候補のバイデン氏は環境インフラへの2兆ドルの投資など大規模な財政支出を伴う経済対策を打ち出している。民主党が議会上院で過半数を獲得すれば、すでに多数派を占める下院とあわせて政策が実現しやすくなる。すでに新型コロナウイルスで落ち込んだ米経済への対策で膨らんでいる財政支出が一段と大きくなることは必至だ。
■財政支出が増えると?
財政支出そのものは悪いことではない。国際通貨基金(IMF)は国の財政に関する最新の「財政モニター」で、新型コロナで影響を受けた景気の回復に公共投資の拡大が助けになると指摘した。IMFの分析によると、現在のように先行きの不確実性が強い場合は、雇用などへの影響が通常よりも大きくなりやすく、国内総生産(GDP)比で公共投資を1%拡大すれば、GDPを2.7%押し上げ、雇用が1.2%増加する可能性があるという。
ただ、国債の需給悪化に景気の持ち直しが重なることで、長期金利は上昇しやすくなり「民主党が大統領選と議会選で勝利すれば、結果判明後の長期金利の上昇幅は30~40ポイント程度になる」(ゴールドマン・サックスのプラビーン・コラパティ氏)との見方も出始めた。2016年に大規模な減税を訴えてトランプ氏が大統領選で勝利したあとに、10年債利回りが16年末にかけて上昇したという経験則も、金利の先高観を強めている。
■FRBの方針
もちろん景気動向やFRBの政策は16年とは違う。堅調な米経済を背景にFRBが利上げに動いていた16年とは対照的に、今回は新型コロナのまん延による景気後退を受けて、FRBは9月中旬の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、少なくとも2023年末までゼロ金利政策を維持する方針を示唆している。長期金利が大きく上昇した場合は「FRBが資産購入を増やす」との思惑が根強い。
需給悪化懸念とFRBの政策の綱引きが続くなかで、9月末に過去最低水準で推移していた債券市場が想定する将来の変動率を示す「MOVE指数」は、足元で57台と6月中旬以来の水準まで上昇した。大統領選前後で株式市場だけでなく債券市場も変動率が徐々に高まることを警戒したほうがよさそうだ。
<金融用語>
米連邦準備理事会(FRB)とは
Federal Reserve Boardの略称。FRBは、FRS(連邦準備制度)の構成機関の一つである。米国の金融政策策定にあたる理事会である。連邦準備理事会という。 FRBが開く金融政策の最高意思決定機関にFOMCがある。FOMCは、FRBの理事7名や地区ごとの連邦準備銀行(FRB)総裁5名で構成されており、米国の金融政策やFFレートの誘導目標を決定する。