グーグル、フェイスブック、ヤフーといった大手テクノロジー企業の拠点が集中するこことから「シリコンビーチ」と呼ばれる米ロサンゼルスのプラヤビスタ。ユーチューブ・スタジオまで徒歩で5分ほどの距離にあるコンドミニアムを友人が売りに出した。築浅で好立地、価格は周辺物件とほぼ同程度に設定したが、問い合わせが1件もない。
アメリカの不動産売買では情報公開が徹底される。不動産業者ネットワークで情報が共有され、過去の全ての売買価格や納税記録が公開される。ウェブサイトでは、売り出しから何日が経過したか、閲覧や保存した件数も表示される。友人の物件は売り出し19日目で閲覧件数は351件しかなかった。通常の10分の1未満だ。
不動産サイトのジローで類似した物件が多数リスティングされていた。過去2週間で急増している。近隣のベニスビーチやサンタモニカでも売り出したばかりの物件や、売れ残り物件の在庫が大幅に増えたこともわかった。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けたロックダウン(都市封鎖)が6月に解除され、不動産取引が活発化した。日本円に換算して1億円を大幅に超える物件が飛ぶように売れ、米経済で最も明るい業界とされた。歴史的な低金利と在庫の少なさが寄与して、住宅価格が上昇した。在宅勤務がニューノーマルになったことも住宅市場の活性化につながったとされた。
米10年物国債の利回りに連動する住宅ローン金利は依然として低いままだ。在宅勤務が通常勤務に戻る兆しはない。環境に変わりはないが、ロサンゼルスの住宅市場は突如として弱含みの兆しが出てきた。米CNBCによると、サンフランシスコの賃貸住宅の家賃が前年比20%下落した。ニューヨーク・マンハッタンの賃貸住宅は1万6千戸近くが空き家になっている。住民が郊外に移動した影響とされるが、米国を代表する大都市の住宅市場の状況は異常事態かもしれない。
米国市民権を持つ家族に選挙用紙が届いた。新型コロナウイルスの感染リスクを避けるため、今年は郵便投票が主流だ。CNNによると、730万人を超える有権者が11日までに投票を終えた。2000年の大統領選で最高裁の判断を受け入れたゴア元副大統領は11日、CNNのインタビューで「選挙日の夜、レッドミラージュが起こる可能性がある」と述べた。
各社世論調査を分析したファイブサーティエイトの予測モデルでは、大統領選で民主党候補のバイデン氏が勝利する可能性は85%。全議席が改選される下院が過半数を維持する確率は94%だ。議席の3分の1が改選される上院を民主党が奪還する可能性は68%と試算された。
これらの数字はホワイトハウスと上下両院の全てを民主党が制する「ブルーウェーブ」の可能性が高いことを示唆している。これに対し、投票所での開票で共和党が勝利宣言し、郵便投票の集計後に民主党が勝利するシナリオは「レッドミラージュ」と呼ばれる。郵便投票で不正があったとしてトランプ大統領が結果を受け入れず、法廷闘争になるシナリオだ。
友人が雇った不動産ブローカーは「先行き不透明感が不動産市場を圧迫している可能性がある」と話した。大統領選に不確実性があり、景気対策がどうなるかわからない。この日も物件問い合わせの電話はなかったそうだ。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信