10月13日、米消費財メーカー大手のプロクター&ギャンブル(P&G)の株主総会で、ボストンを拠点とするGreen Century Equity Fundsが提出した議案への投票が行われた。同議案は、P&Gのサプライチェーンにおける森林伐採への対応について情報開示を求めるものである。結果、3分の2の賛成率を達成した*1。
Green Century Equity Funds(以下、Green Century)は、同社の2020年森林伐採ゼロ目標(2020年までパーム・サプライチェーンにおける森林伐採ゼロを確保)の達成を「疑問視する」としたメディアの報道に加え、貴重な二酸化炭素吸収源である森林からのパルプの調達に対するNGO115団体のキャンペーンも懸念している。
自然資源防衛協議会(NRDC:Natural Resources Defense Council)によると、対象となる森林にはP&Gがトイレットペーパーやティッシュ製品の原料を調達しているカナダの寒帯林も含まれている。
森林伐採は気候変動だけでなく、先住民の権利侵害を引き起こしており、批判的な報道が目立つ。NRDCの報告書「The Issue with Tissue」がその内容を取り上げている。
Green Centuryによると、P&Gは年次報告書(10-K)で、自社製品による環境への悪影響が風評被害をもたらすため、リスク要因の一つとして挙げている。リスク分析を手掛けるコンサルタント会社Chain Reaction Researchの試算によると、風評被害の総額は同社の株主資本の14%に当たる410億ドルに相当する可能性があり、「環境問題の解決策のコストをはるかに上回る」とみられる。
またGreen Centuryによると、森林保護に取り組む企業ランキング「Forest 500」や国際NGOのCDPのランキングでP&Gは同業他社に遅れを取っている。さらに、森林リスク評価ツール「Soft Commodity Risk Platform」も同社を「高リスク」と判断している。
Green Centuryは、同社の森林伐採ゼロ目標達成に向けた取り組みにも遅れが見られるとしている。同社が調達するパーム油のうち、「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の認証を受けているのは全体の3分の1にとどまることを指摘した。
また同社が、世界最大のパーム核油サプライヤーからの購入を続けており、それらのパーム油が2016年を最後にRSPOの認証を受けていない点についても批判している。
「加えてP&Gは、森林伐採と森林劣化のリスクを低減するための包括的な計画の策定に組織を挙げて取り組んでいない。同社の現行の調達方針は、カナダの寒帯林をはじめとする重要な生態系からの原料調達を認めている」とも述べている。
P&Gの取締役会は、今回の株主提案に反対票を投じるよう株主に働きかけた。そして、自らは商業用の森林を保有または管理していないが、自社の調達・製造業務を通じて森林が果たす重要な役割を認識していると説明している。また、サプライチェーンにおける責任ある調達および慣行の実現に向けて常に取り組んでいるとしている。
また、「P&Gはステークホルダーに対して、パルプおよびパーム油のサプライチェーンの管理方針、業務慣行のさらなる改善と環境への悪影響削減に向けた取り組みと目標、それらの目標の達成状況と成長機会について既に十分な情報開示を行っている。今回の株主提案は、当社の情報開示または取り組みの進捗に何ら影響を与えない」とした。
Green Centuryは今年、Aramak、Tyson Foods、Archer Daniels MidlandおよびBloomin’ Brandsに対しても同様の株主議案を提出する計画だったが、これらの企業が森林伐採の問題により積極的に取り組む姿勢を示したことを受けて議案を撤回した。
P&Gで2番目に大きな株主であるBlackRockは、株主議案に賛成票を投じた投資家の1人だった。*1
*1 Financial Times, “Investor rebellion at Procter & Gamble over environmental concerns”(2020/10/14)
※本稿は、レスポンシブル・インベスター(Responsible Investor)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。同社は、ロンドンに拠点を置く、世界の機関投資家に向けた責任投資、ESG、サステナブル・ファイナンスを専門的に取り扱うニュースメディアです。
<金融用語>
CDPとは
CDP(旧名称:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(Carbon Disclosure Project))は、世界の機関投資家が企業に対して環境戦略やCO2・温室効果ガス対策などに関する開示を求めるイニシアチブである。このイニシアチブに署名した投資家に代わり、ロンドンに事務所を置く非営利団体 CDPが質問状を送り、その回答を分析・評価し、署名機関などに開示する。2002年に最初の質問票を送付し、企業の「気候変動(Climate Change)」に関する取り組みへの回答を要求、2003年に最初の報告書を作成した。その後2010年には「水(Water)」、2013年には「森林(Forest)」、などに調査対象を拡大した。これに伴い2013年、正式名称を「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」から「CDP」に変更した。 責任投資・ESG投資において、企業の環境課題に対する取り組みを評価することは近年より重要となっており、CDPには環境情報の開示を企業に要請することに賛同する多くの機関投資家が署名している。2002年の第一回調査時点では、署名機関数は35件であったが、パリ協定を経た2016年には署名機関数(気候変動プログラム)は827件にのぼり、これら機関の運用資産総額は100兆米ドル(約1京1千兆円)を超えた。同プログラムの質問書は世界の企業6,000社以上に送付され、全世界の株式市場時価総額の60%近くに及ぶ約5,800の企業が回答している。 2008年からは「気候変動」の分野で、企業から自社の取引先へ回答を依頼する「サプライチェーン・プログラム」を開始し、2016年には89企業が参加した。「水」サプライチェーンは2013年から、また「森林」サプライチェーンは2017年から開始している。(QUICK ESG研究所)
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