【QUICK Market Eyes 川口究】再生可能エネルギ―銘柄へ投資マネーの流入が顕著だ。欧州や民主党候補のバイデン前副大統領の気候変動対応策に促される形で、日本でも再エネ活用促進に向けた具体的な政策が動き出しそうなことが背景にある。発電の課題克服に資する技術を用いた事業の立ち上がりも間もなく見込まれており、気候変動危機の回避に向け、この流れは加速していきそうだ。
■日本でも再エネ普及の道筋が
再生可能エネルギー銘柄の躍進が著しい。再生可能エネルギーのレノバ(9519)やエフオン(9514)など再エネ関連企業4社を指数化したバスケットは10月5日以降に急伸している。気候変動対応に積極策を掲げるバイデン前副大統領の支持率がトランプ大統領のそれに対して差を広げて、2兆ドル規模の環境投資が意識された出した頃だ。
その後、13日には梶山弘志経済産業相が日本経済新聞のインタビューで、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを「他の電源に比べ上位の主力電源にしていく」と表明した。また日本経済新聞が16日に実施したインタビューで、河野太郎規制改革相は再生可能エネルギーの活用促進に向けて「既存の制度を総点検する」と表明した。欧州は脱炭素と経済成長の両立を測るグリーンディールを3月時点で発表しており、遅ればせながら日本でも再エネ普及の道筋が示された。一方で、石炭火力発電の施設を数多く所有する10大電力と電源開発(9513)を指数化したバスケットはTOPIXを10ポイント以上アンダーパフォームしている。
■自然の影響を克服するVPP
再生可能エネルギーの急拡大に向けた下地は着実に整いつつある。再エネの多くは天候や気温など、自然の影響を大きく受けるため、発電量が大きく左右されるという難点を抱えるが、それを克服するのに資すると考えられているのがVPP(バーチャルパワープラント、仮想発電所)だ。VPPは分散する発電所や蓄電池、電気自動車(EV)などをITネットワークでつなぎ、電力受給バランスをとるため、不要な電気機器を制御するなど、あたかも1つの発電所のように機能させる。直近ではDeNA(2432)が事業参入に手を挙げた。21年度にはVPPの実証実験での成果も生かす形で、余剰電力を売る事業者と買い手の電力会社が参加する取引市場が立ち上がる予定だ。
■「世界のGDPが最大25%消える」
再エネ普及を急ぐ背景には、温暖化による大規模な自然災害の発生が景気を悪化させ金融システムを不安定にさせることへの警戒心が高まっているからといえよう。各国・地域の中銀や監督当局で構成する「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」は今夏、気候変動シナリオを分析したリポートで、「温暖化への対応が遅れる場合は世界のGDP(国内総生産)が2100年までに最大25%消えるインパクトがある」との見解を示した。英イングランド銀行(中央銀行)は既にに19年12月、金融業界の気候変動リスクに対する耐性を測るストレステストを実施すると発表した。フランス中銀は同様の取り組みを検討している。
実際に気候危機は日本において水害被害として顕著に見て取れる。国土交通省がまとめた2019年の水害被害額は全国で約2兆1500億円で、津波以外の水害被害額としては1961年の統計開始以降、過去最大となった。野村証券のリポートによれば、主要製造業の本社及び主要な設備について、該当所在地、あるいはその周辺が洪水浸水想定区域に該当するかどうか、該当する場合は想定される浸水深を集計した結果、集計対象のうち浸水危険度が1以上であったのは607事業所で、全体の27%が洪水による浸水のリスクにさらされているという。
将来にわたって気温上昇が続き、降雨量と共に洪水発生頻度が増加した場合を考えると、日本企業が直面している洪水リスクは大きいといえそうだ。
<金融用語>
再生可能エネルギ―とは
太陽光、風力、波力・潮力、流水・潮汐、地熱、太陽熱など、一般的にエネルギー源として永続的に利用できるものをいう。資源が枯渇しないことに加えて、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しない優れたエネルギーといわれている。対義語は枯渇性エネルギー。 投資信託の分野では近年、再生可能エネルギーを投資対象とする環境関連ファンドなども設定されている。