英ポンドは軟調な値動きが続くとの見通しが強まっている。英国と欧州連合(EU)の通商交渉は英国側が提示した交渉期限を過ぎたが、決裂は一旦回避されたようだ。ただ交渉の先行きには不透明感が強く、新型コロナウイルスの感染再拡大は英国でも広がるなど、ポンドを取り巻く環境は厳しい。そんな中、ポンド取引に積極的に参加する日本の外為証拠金(FX)投資家「ミセスワタナベ」が増加している。
■交渉決裂の可能性も
10月21日の東京外国為替市場でポンドは対ドルで1ポンド=1.30ドル台で推移している。英国とEUの自由貿易協定(FTA)の妥結を目指す交渉の難航が伝わった8月下旬から軟調な値動きが続く。英国は交渉期限として10月15日を提示していたが、結局合意には至らなかった。ただ英国、EUともに交渉決裂を明言しておらず、駆け引きを繰り返しながら協議を続けるとみられている。

もっとも、双方の意見が完全に一致した形での合意は難しいとの見方は根強い。意見の食い違いであげられるのは英海域での漁業権についてだ。EUは加盟国漁船が長期的に英海域で操業できる権利を求めるが、英国は受け入れていない。フランスのマクロン大統領が「我々の漁業を犠牲にするような合意は受け入れない」と発言するなど、漁業権を巡る双方の溝は深く、今後交渉が決裂する可能性も否めない。
■新型コロナの感染再拡大
ほかにもポンドを下押しする材料は多い。このところ欧州を中心に新型コロナの感染が再び拡大している。英国も例外ではなく、20日の新規感染者は約1万9000人で、1日あたりの感染者数は「第1波」とされる4月と比べおおむね3倍を超える水準まで増加している。ポンドを下支えする堅調な株式相場も「米大統領の選出が難航することになれば、株式相場は下落に転じるとみられ、ポンドの支援材料が払拭される可能性もあり得る」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏)と懸念が広がる。
■ミセスワタナベは熱い視線
ポンドの対円相場は9月上旬には1ポンド=140円を上回って推移していたが、その後は下落基調となり、10月以降はおおむね136円を挟んだ動きが続くなど軟調だ。弱含みでやや不安定なポンド相場にミセスワタナベは熱い視線を送っている。金融先物取引業協会が14日公表した9月の店頭FX取引状況によると、9月のポンドの取引金額は114兆6628億円で前月比で約2倍の金額に膨らんだ。同月のユーロの取引金額の1.3倍、オーストラリア(豪)ドルの取引金額比では2.4倍だった。10月に入っても投資熱は冷めていないようで「今月もポンドの取引高は高水準を維持している」(FX会社)という。

ポンドが注目を集める理由には「動かぬドル円」も影響している。ドル円相場は20日まで37営業日連続で1日の値幅が1円未満となっており、米大統領選が近づくにつれて様子見ムードが広がることから当面は狭い値幅での推移が続くとみられる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は「ポンドはEUとの協議動向で一喜一憂する状態が続いており、激しい値動きを好む投資家にとっては魅力的といえる」との見方を示す。交渉難航で派手な値動きが想定されるポンドは引き続き人気を集めそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN)山田周吾〕
<金融用語>
ミセスワタナベとは
外国為替市場で、日本の小口の個人投資家のこと。日本の為替市場で、昼休み時間帯などに、個人投資家のFX取引が市場を動かす要因となったことがあり、日本の個人の代名詞として「ワタナベ」が英国で使われ始めたのがきっかけ。