米連邦準備理事会(FRB)は10月21日、全米12地区連銀が管轄する地域の経済情勢をまとめた米地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表した。経済活動に関して「すべての地区で拡大が続いた」と総括したが、拡大ペースは大半の地区で「わずか、または緩やか(modest)だった」という。見通しはおおむね楽観的だが、相当な不確実性を抱えていることもわかった。
今回のベージュブックはFRBが11月4~5日に開く米連邦公開市場委員会(FOMC)の討議資料となる。主な内容は以下の通り。
◎経済活動
製造業の活動は全般に穏やか(moderate)なペースで増えた。住宅市場は在庫水準の低さが(販売)活動を抑制しつつも、新築と中古ともに安定した需要が続いた。銀行は住宅ローン融資の需要増が全体的な貸し出し需要の押し上げにつながったという。半面、商業用不動産の市況は多くの地区で悪化が続いた。例外として倉庫と工業用スペースは引き続き建設と賃貸契約が安定していた。個人消費の伸びは良好さが続いたが、いくつかの地区は小売売上高の伸びが止まり、観光業はやや上向いたと報告した。自動車は安定した需要が続いたが、在庫水準の低さが販売を様々な度合いで抑えた。複数の地区が見通しはおおむね楽観的または良好だと表現したが、相当な不確実性を抱えていた。多くの地区のレストラン経営者は、屋外飲食の営業に頼ってきた中で気温の低下が売上高の伸びを抑えそうだと懸念していた。多くの地区の銀行も、今後数カ月で様々な理由を背景に債務不履行の比率が上昇するかもしれないと懸念していた。
◎雇用と賃金
雇用はほぼすべての地区で増えたが、伸びは鈍いままだった。最も一貫して雇用増を報告したのは製造業だったが、企業による新たな一時帰休や一時解雇(レイオフ)の報告も続いた。大半の地区で労働需給は引き締まっているとの報告が続き、従業員による健康や保育への懸念を理由にしていた。結果として、企業はより柔軟な労働時間を提供したという。ただ、2~3地区ではいくつかの企業は採用しやすかったと報告した。大半の地区で賃金はわずかに上昇し、それは労働者、中でも低賃金や需要の大きい業務の労働者を見つけることの難しさとしばしば結びつけられた。いくつかの企業は通常レベルへの賃金の回復(と昇給)を報告したが、多くの企業は賃金は安定的だと答えた。
◎物価
物価圧力は前回の報告から緩やかに各地区にわたって上昇した。仕入れコストの方が消費者物価よりもおおむね上昇ペースが速かったが、特に建設業、製造業、小売業、卸売業などは消費者にコスト上昇分を転嫁した。消費者物価は特に大幅に上昇した食品、自動車、電化製品などを除いて、全体的に各地区にわたって緩やかに上昇した。ガソリンの小売価格は低下した。仕入れコストは様々な度合いで上昇し、鉄鋼と木材を中心とした素材コストの上昇が押し上げ要因となった。多数の地区で(マスクなど)個人用保護具や衛生用具、検査機器、在宅勤務に必要な技術を含む新型コロナウイルスに伴う追加費用を企業が負担する状況が続いていると報告した。(NQNニューヨーク 戸部実華)
<金融用語>
ベージュブックとは
米国の連邦準備銀行がまとめた、地域の経済状況を報告する文章のこと。 FOMCが開催される2週間前の水曜日に公表する。