【QUICK Market Eyes 片平正二、池谷信久】米大統領選の投開票日まで2週間を切り、その後の展開を予想するレポートが目立つようになってきた。基本的なシナリオは世論調査に沿う格好で「バイデン米大統領誕生」がベースとなっている。これを前提にしたストラテジストたちの見立てでは「ドル買い=円安」が進むとの声が聞こえている。
■米金利の国内市場への影響は軽視できない=BofAセキュリティーズ
11月3日の米大統領選挙を控える中、BofAセキュリティーズは10月21日付のリポートで日本の金融市場への短期的影響を考察した。リポートでは「グローバル市場における日本株と円の米金利に対する高い感応度を踏まえると、米国選挙の国内市場への影響は軽視できない」としながら、「民主党完勝の場合、米金利カーブのベアスティープ化を通じ、日本株とクロス円がアウトパフォームし得るが、円安は株高ほど持続しないだろう」とし、株高・クロス円での円安を見込んだ。一方、「接戦となり、選挙結果を巡る混乱が長期化するようであれば、米カーブのブルフラット化を通じ日本株とクロス円にネガティブとなろうが、クロス円の下落余地がより大きい」とし、クロス円での円高インパクトが大きくなるとみつつ、ドル円は下げても100~103円程度と下値リスクは限られるとみていた。
日本株のセクターに関しては「米国債のベアスティープ化局面ではシクリカル、輸出関連、一部の金融セクターが上昇する傾向にある一方、ITセクターなどの成長セクターは苦戦している」と指摘した。米金利低下などほかの金利局面では逆の傾向が見られるとしつつ、「IT/サービス及び医薬品セクターは最近のベアスティープ化以外の局面で特に堅調に推移している」とも指摘した。
なお菅政権下での日本株のインプリケーションとしては「第二次安倍政権は発足後数カ月間にわたり高支持率を維持した。保守層を岩盤支持基盤とする安倍氏とは異なり、菅氏は強力な支持基盤を持たないため、幅広い国民に訴求する必要性がより高い」とし、菅政権が「国民の支持を得るため、ポピュリスト政策を優先」と指摘。携帯料金引き下げ、GoToキャンペーンといった政策で示されるとおりポピュリスト的な傾向を強めるとしつつ、「厚労省再編や地銀再編などの改革は政治資源と短期的コストを要し、特に新型コロナウイルス(COVID-19)による経済への長引く影響を踏まえると、先送りされる可能性がある」とし、デジタル庁創設が待たれる一方で本格的な省庁再編は時間が掛かるとみていた。
■「米大統領選後はドル反発へ」=野村証券
リスクオフの場面でもドルが買われない理由として野村証券の松沢中氏は、①米大統領選後の相場急変を回避する資金の流れ、②3月の様なドル流動性収縮が発生していない、③米株の相対パフォーマンス上昇が止まっている、ことを挙げた。一方で夏場までドル指数下落の主たる原動力となってきた米実質金利の低下は止まっている。これは米連邦準備理事会(FRB)のコミュニケーションによって、「追加緩和の可能性が低いことを市場が認識したからだ」と指摘した。
大統領選で比較的速やかに「ブルーウエーブ」となった場合には、経済対策合意が確実視され、「まずはトランプ政策の否定から始めるだろうバイデン政権は、FRB政策への非介入主義を強調する」と松沢氏はみている。Fedは特段タカ派メッセージを出すことはないとしても「市場の一部が期待する様な長期金利抑制の追加策(QE増額やデュレーション長期化など)を示唆することもなく、それが長期金利上昇の容認と取られる」可能性が高い。
「ブルーウエーブ」でもなおドル安が止まらないリスクとして、①新政権がすぐさま対中ハト派姿勢(トランプ減税の撤回など)を強調する、②新政権(新財務長官)がすぐさまドル安志向を強調する、③金利上昇がハイテク株の大幅安を引き起こすことを挙げたが、いずれも可能性は低く見ている。
仮にトランプ政権となった場合も、FRB議長をすげ替える様なことなければ「長期金利はもはや下がらず、米ハイテク株を中心に米国株の相対パフォーマンスが改善し易いため、少なくともドル下落は続かない」と述べていた。
<金融用語>
シクリカルとは
英語表記はCyclical。循環的な景気変動のこと。代表的なものに、景気の回復、拡大、後退、悪化が繰り返し表れるビジネスサイクルがある。株式市場において、景気の変動によって上昇したり下落したりする銘柄をシクリカル銘柄(景気敏感株)という。