新型コロナウイルスの感染が深刻化した3月以降で初めて、ビバリーヒルズに行った。「選挙当日の夜と翌日に暴動が起きる可能性があり、厳戒態勢が敷かれた」というテレビのローカル枠のニュースを観て、興味本位で行ってみた。
高級ショッピング街ロデオ・ドライブは予想外に買い物客が多く、ルイ・ヴィトンの店舗前に長い行列ができていた。行列の隣に警察車両が4台。特殊部隊(SWAT)の車両もあり、「映画の撮影か」と思える光景だった。近くのショップがドアや窓に厚い板を張る作業をしていて、完全に封鎖された店舗もあった。
ビバリーヒルズから戻った後、ロデオ・ドライブ近くでトランプ大統領の支持者が無届けの集会を開き、黒人差別の抗議デモと衝突しそうになり警察が急行したことをソーシャル・メディアで知った。
人種差別抗議が拡大した5月末、ビバリーヒルズで暴動が起きた。多くの高級ブティックが略奪の被害にあった。暴動は近隣のサンタモニカに広がり、ルイ・ヴィトンやナイキ・ショップ、シティバンクなどで略奪が横行する模様がテレビ中継される異常事態に発展した。選挙に絡み暴動・略奪が再び発生する可能性があるため、ロデオ・ドライブは投票日前後に閉鎖されることになったと聞いた。
米ワシントン・ポスト紙によると、オレゴン州ポートランドで右翼の武装集団が武器を持って投票所に行くことを計画、対立関係にある極左グループも同様の行動を予定している。ニューヨーク・タイムズ紙は、小売り各社が投票日以降の暴動にどう対応するか計画を練っていると報じた。サンフランシスコ、ボストン、セントルイスなど全米各地でカオス状態に備え異例の厳戒態勢が敷かれると伝えられた。
CNNによると、1日時点で9350万人の米有権者が既に投票を終えた。2016年の全投票者の68%に相当する数だ。内訳は、郵便投票が約6160万人、投票所での期日前投票は約3190万人。新型コロナウイルスの感染を警戒する民主党支持者の多くが期日前投票を好み、共和党支持者は選挙当日に投票する傾向が強いことを各社世論調査が示している。投票所の開票が優先されるため、開票初期段階では共和党が優勢になると幅広く予想されている。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCニュースによる最新の共同調査では、民主党大統領候補のバイデン前副大統領の支持率は52%で、42%のトランプ大統領に10ポイントの差をつけた。ただ、これは全米の有権者を対象にした調査で、激戦州だけに絞ると両候補の支持率は拮抗していて、予断を許さない状況といえる。
開票初期段階の結果を受けトランプ大統領と共和党が勝利宣言する「レッドミラージュ」のリスク、郵便投票結果を受けバイデン氏が勝利宣言するもののトランプ氏が受け入れないリスク、法廷闘争になり長期に渡り選挙結果が確定しないリスク。2020年の米選挙は投票日当日だけではなく、選挙後にどう展開するか誰も読み切れないでいる。
米国の主要メディアの多くは、コロナ対応や黒人差別などをめぐり米国がかつてないほど分断したと伝える。ニューヨーク・タイムズ紙は、分断された国家で、多くの米国人が銃を買いたがっていることだけは一致していると伝えた。連邦捜査局(FBI)の統計によると、年初から9月までに米国人が前年比91%増の1510万丁の銃を購入した。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信