【日経QUICKニュース(NQN) 西野瑞希】英ポンドの上昇が続いている。10日には円やドルに対して2カ月ぶりの高値をつけた。新型コロナウイルスのワクチン開発への期待などから世界的な株高が続き、投資資金の調達通貨と位置づけられる円とドルに下げ圧力がかかるなかで欧州連合(EU)との通商交渉に対する楽観論もポンド高を後押ししている。
■交渉進展に期待
「英国とEUは自由貿易協定(FTA)交渉で来週にも合意に至る可能性が高い」。ソニーフィナンシャルホールディングスの石川久美子氏はこう話す。今年1月にEUを離脱した英国が加盟国とほぼ同等に扱われる「移行期間」は年末までだ。既に残り2カ月を切っており「各国の議会での承認作業を考えると11月中旬までに合意しないと間に合わない」(石川氏)ためだ。
実際、停滞していた交渉は急速に進みつつある。8日にはジョンソン英首相が「大枠は既に明確で、協議を続けて合意にこぎ着ける」と意欲を示した。それを受け、EUのバルニエ首席交渉官と英国のフロスト首席交渉官は9日からロンドンで協議を再開し、スナク英財務相によると「通商交渉で大きな進展があった」という。
■テクニカル面も買いシグナル
交渉進展への期待を映すように外国為替市場ではポンドが大きく上昇。対円では10日に一時1ポンド=139円75銭近辺、対ドルでは1ポンド=1.3277ドル近辺とともに9月上旬以来の高値をつけた。交渉が合意に至れば一段とポンド高が進むとみられ、石川氏は「対円では9月の高値である142円台後半まで上昇余地がある」と予想する。
テクニカル分析面もポンド買いを後押しする。対円でみると、ポンド相場は9月2日の高値から28日につけた安値まで下げ幅に対し、「フィボナッチ比率」の61.8%戻しの水準にあたる139円前後を明確に上回った。マネーパートナーズの武市佳史氏は「一方向に進むと歯止めがかかりにくいのがポンド・円相場の特徴だ」と指摘。戻りのメドを上回ったことで「ポンドの買い戻しが一段と強まる」と話す。
だが、欧州は新型コロナ感染の新たな震源地になり、英国でもロンドンなどで部分的なロックダウン(都市封鎖)に踏み切っている。景気下振れ懸念からイングランド銀行(英中央銀行)は5日に量的金融緩和の拡大を発表するなど通貨安を招く要因は多い。数年に及ぶ交渉が土壇場でひっくり返れば、手痛いしっぺ返しを食らうリスクにも注意が必要だ。