【QUICK Market Eyes 本吉亮】ミクシィ(2121)の「モンスト」依存体質からの脱却に着目したい。同社はSNS「mixi」で一世を風靡するもフェイスブックの襲来で一気に衰退したが、2013年にサービスを開始したスマホ向けゲーム「モンスターストライク(モンスト)」の大ヒットでV字回復。16年3月期までは濡れ手に粟状態で業績拡大を続けるも、ユーザー離れなどで業績は頭打ち状態となっている。モンスト以外の収益源の確保が急務で紆余曲折を続けているが、足元ではスポーツ事業に活路を見出しつつあるようだ。
■脱モンスト
同社がまず注力したのはチケットフリマアプリ「チケットキャンプ(チケキャン)」だった。「チケキャン」はタレントの小島瑠璃子さんを起用したCMで一躍有名となり、17年3月には登録会員数が300万人を突破。日本最大級の転売サイトに成長し、収益貢献が期待されていた。しかし、「嵐」などのプレミアチケット高額転売が社会問題化したほか、商標法違反や不正競争防止法違反など問題が相次ぎ閉鎖を余儀なくされた苦い経験がある。
その後は手探り状況を続けていたが、スポーツ事業で胎動がみられる。起点となったのは「モンスト」をヒットに導いた木村弘毅氏が18年6月に社長に就任したことだろう。「スポーツ領域の事業成長」を重点戦略に掲げて、19年2月に競輪車券(勝者投票券)のインターネット投票サービス「チャリロト.com」を提供するチャリ・ロトを買収したのを皮切りに、同年11月には競馬総合情報メディア「netkeiba.com」を運営するネットドリーマーズも買収した。
■コロナ禍でのインターネット販売
競輪市場は13年度の約6000億円を底に回復傾向にあるが、その背景にはインターネット販売の普及があるとされる。19年度のネット売上は全体の5割超に達したが、チャリ・ロトもその一翼を担っている。また、「netkeiba.com」は月間ユーザー数が1000万人、PV10億超を誇るなど競馬サイトでは唯一無二の存在で、今後の競馬関連ビジネスを展開するうえでは核となりうる。
新型コロナウイルスはスポーツ業界に多大な影響を与えたが、ミクシィはそれを追い風にしているようだ。競輪や競馬などは無観客でのレース開催、車券や馬券などはインターネット販売のみに限るなどの措置が取られたことで、「チャリロト.com」や「netkeiba.com」の存在感が高まり、ミクシィのスポーツ事業は2Q(7~9月期)に売上高が前年同期比4.7倍の約30億円に拡大した。
■公営競技関連の事業拡大へ
今後は20年6月末からサービスを開始した公営競技新サービス「TIPSTAR」の動向に注目されそうだ。「TIPSTAR」は多彩なタレントたちの予想トークとともにライブ映像で仲間と競輪を観戦しながら、競輪のネット投票が楽しめるスポーツベッティングサービス。専用通貨「TIPメダル」を使用することで、ソーシャルゲームのように無料で遊ぶこともできる。成長性の高い公営競技にソーシャルゲームで培った「エンタメ×IT」のノウハウを掛け合わせており、ミクシィの総力を結集したサービスと言えそうだ。
競輪とは縁遠かった女性の参加比率が約5割に達し、年代も20~30代の若者が登録者の半分を占めるなど、新たなユーザー層の取り込みに成功しているという。これまではスマホのブラウザでサービスを提供していたが、10月からはアプリ版もリリースしたことで新たなユーザー獲得に勢いがつきそう。今後は競輪のみならなず、競馬などにも対象を拡大する可能性が考えられ、公営競技関連の事業拡大に貢献する存在になりうるかもしれない。足元は先行投資局面だが、来期以降の業績に寄与すると期待される。