【NQN香港=林千夏】中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント)が12日の取引終了後に発表した2020年7~9月期決算は、純利益が前年同期比89%増の385億元と、市場予想を上回る大幅な増益となった。特に主力のオンラインゲームは45%の増収となり、伸び率は17年7~9月期以来3年ぶりの大きさだった。だが中国当局は11月に入って、フィンテック分野やネット企業の独占行為への規制を強化する姿勢を見せている。好決算とは裏腹に、近づく当局の締め付けが先行きの収益環境に影を落としている。
■スマホゲーム好調
7~9月期の売上高は1254億元と、前年同期比で29%増加した。売上高、純利益ともQUICK・ファクトセットが集計した市場予想(売上高1240億元、純利益298億元)を上回った。本業の好調に加えて、電気自動車(EV)やゲーム開発企業といった投資先の評価益などが計115億元あり、業績を押し上げた。
※テンセントの売上高(四半期、人民元)
ゲームではパソコン向けが1%増にとどまった一方、スマホ向けが61%増とけん引役となった。主力タイトルの「王者栄耀」の利用者数は、新型コロナウイルスの影響による「巣ごもり需要」が峠を越した後も堅調で、1~10月の1日あたりの平均利用者数が1億人を突破した。広告収入も7~9月は16%増となり、経済活動の正常化を背景に特に自動車や不動産などの分野で回復が目立った。
■アントIPO延期の余波
だが先行きには暗雲が垂れこめる。11月に入って、アリババ集団傘下の金融会社アント・グループの香港・上海市場での新規株式公開(IPO)が突如延期された。これは同社独自の審査基準で行っている小口融資などが当局に問題視されたためとみられる。
テンセントは7~9月期に、「微信支付(ウィーチャットペイ)」などによる決済事業で商業決済額が前年同期と比べ30%以上の伸びとなり、資産運用の顧客数の増加率も50%を超えた。実は同社も、アントのような小口融資サービス「微粒貸」を提供している。
12日夜の決算説明会で、テンセントの劉熾平総裁は「微粒貸」は当局から免許を取得している傘下のネット銀行「微衆銀行(ウィーバンク)」が運営していると説明。「微粒貸」の規模などは明らかにしなかったが、中国メディアの新浪の推計では、まだ決済事業の収入の3%程度にとどまるもようだ。そのため劉総裁は「(小口融資に関する当局の)新しい規制は微粒貸に影響はない」と述べたうえで、「金融事業を展開する上での原則は、規則を順守することだ」と強調した。
テンセントの場合、小口融資に限れば当局の規制が収益に与える影響はアリババよりも小さいのかもしれない。だが市場では「当局の規制の内容が明らかになれば、アリババと同様に金融や決済事業の価値を割り引いて算出し直す必要が出てくるため、結果的に株価の重荷となる」(香港の華晋証券資産管理の馮宏遠・最高投資責任者)との指摘が出ている。
中国当局はアントの上場を延期させたのに続き、10日にはネット企業の独占的な地位を利用した商習慣を監視する指針の草案を公表した。ウィーチャットペイは、アリババの「支付宝(アリペイ)」と並ぶ中国の主力決済インフラだ。今後、決済インフラへも当局の介入が強まれば影響は甚大となる可能性があり、「新規顧客を取り込むための現金の還元などができなくなる。当局が2社による顧客囲い込みをなくそうとすれば、ウィーチャットペイとアリペイ以外の決済インフラに利用者が流出する可能性がある」(華晋証券の馮氏)と警戒する声も聞かれる。
13日の香港株式市場で、テンセント株は好決算を受けて一時3.9%上昇した。だが同社株は18年に、中国当局のゲームへの規制強化で半値近くまで下落したこともある。当局のさじ加減次第で、巨大企業でも業績が左右されるリスクがあるのが中国。当局が新たに導入しようとしている反独占規制の全体像はまだ不明とあって、株主も経営陣もその内容の見極めを迫られている。