外国為替証拠金(FX)取引に参加する個人投資家「ミセスワタナベ」がユーロを活発に売買している。新型コロナウイルスの感染再拡大や、欧州連合(EU)と英国の通商交渉を巡って振れ幅が大きくなり、収益機会と捉える個人が多いためだ。ユーロなどの欧州通貨は引き続き値動きの大きさが見込まれ、投資対象として人気を集めそうだ。
■ドルよりユーロ
金融先物取引業協会が16日に発表した10月の店頭FX取引状況によると、「ユーロ・円」の取引金額は31兆7949億円だった。9月比ではやや減ったものの、前年同期からの伸び率は2.1倍と6月以来の大きさになった。「ユーロ・ドル」の通貨ペアの取引金額も34兆8334億円と、前年同期の2.4倍に増えた。
高水準のユーロの取引が続いた背景について、マネーパートナーズの武市佳史氏は「10月は米大統領選を控えてドル円相場の動きが小さく、適度に動きのある欧州通貨に目を向ける個人投資家が多かった」と話す。10月の対ドル円相場の月間値幅は2円09銭。円高・ドル安がほぼ一方向に進んだ。それに比べて対ユーロの円相場の値幅は3円45銭で、1カ月間に大きな上下を2度繰り返していた。
ユーロは9月以降、対円で緩やかにユーロ安の基調が続く。新型コロナの感染再拡大に伴い欧州各国では10月以降、行動規制が強化された。ロックダウン(都市封鎖)の再導入に踏み切った国もあり、欧州は10~12月期に再びマイナス成長が見込まれる。ただ、市場では「今後の景気悪化の懸念が強いからこそ、欧州通貨はワクチンの開発期待が高まる場面で最も恩恵を受ける。コロナを巡る動向次第で上昇も下落もしやすい」(マネーパートナーズの武市氏)との声が聞かれた。
EUと英国の通商交渉に対する先行き不透明感もユーロの重荷となっており、ユーロ安が進んだ場面では、相場の流れに逆らう「逆張り」に動く傾向が多い「ミセスワタナベ」がユーロ買いに動いた。
■今後も欧州系通貨に関心
ユーロとともに売られたポンドの取引も活況が続いている。10月の「ポンド・円」の売買高は75兆8873億円と、2020年度では9月に次いで多かった。
※金融先物取引業協会の資料より
通商交渉を巡っては市場で思惑が交錯する。英国のフロスト首席交渉官が15日、「ここ数日は前向きな方向に進んでいる」とツイッターに投稿するなど、11月に入り合意の期待は高まりつつある。一方、双方が合意への大きな障害を打開できずにいることから同氏は「成功しない可能性もある」と警告もしている。交渉期限は今後も延長される可能性があるが、英国がEU加盟国とほぼ同等に扱われる「移行期間」は年末までで、猶予はあまりない。
<合わせて読みたい> |
ユーロとポンド下落を予想 感染再拡大でマイナス成長か QUICK外為調査 |
今後の相場について、上田ハーローの森宗一郎氏は「欧州通貨は通商交渉の動向といった材料に加え、経済指標に対しても反応しやすくなっている」との見方を示し、「ドル・円」よりも「ユーロ・円」や「ポンド・円」のほうが値動きが大きそうだと指摘した。11月以降も欧州通貨を中心に個人の売買が盛り上がりそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN) 西野瑞希〕