2週連続の「月曜日のワクチン株高」に債券市場の反応は鈍かった。長期金利が節目の1%に迫るなか、12月に米連邦準備理事会(FRB)が追加的な金融緩和に動くとの見方が、金利上昇の抑止力となっている。市場関係者の関心が向かう具体策については、買い入れ国債の年限長期化との予想が多い。
■2回目は反応鈍い
11月16日のニューヨーク債券市場で米長期金利の指標である10年物国債利回りは前週末比と同じ0.90%で終えた。米モデルナが16日朝、新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験で高い有効性が確認できたと発表。ワクチン普及による経済正常化への期待が高まり、米株式市場ではダウ工業株30種平均が9カ月ぶりに過去最高値を更新した。
ワクチン期待で株式相場が大きく上昇したのは、1週間前の9日に米ファイザーが開発するワクチンで同様の発表をしたときと同じだ。ただ、同日は長期金利が一時、前の週末比0.2%高い0.97%と急上昇したことと比較すると、16日の反応はかなり限定的だった。
■追加緩和に動くか
2回目のワクチン相場で「慣れ」があったことに加え、12月15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが追加緩和に動くとの見方が金利上昇を抑える。パウエル議長は12日の討論会で「今後数カ月間は厳しい状況になるかもしれない」と述べるなど、新型コロナの感染再拡大による短期的な経済の下振れを懸念した。10月の米消費者物価指数(CPI)の伸び悩みも鮮明だ。JPモルガンのジェイ・バリー氏は「FRBの選択肢は12月の追加緩和となり、市場が本格的に織り込みに行けば長期金利は低下する」と指摘する。
焦点は追加緩和の中身だ。米ブルームバーグ通信によると、市場関係者の追加緩和の予想は買い入れ国債の年限長期化が6割、資産買い入れ増額は4割だ。FRBがマイナス金利政策を導入しない限り、1%を下回って推移する長期金利については、マイナスにならないという「非負制約」が米国では生きている。低下余地の乏しい長期金利に対し、FRBの緩和姿勢の長期化を市場に知らせるという意味では、買い入れる長期国債の割合を高める政策の方が有効との見方ができる。
■「ツイストオペ」が候補に
買い入れ債券の年限長期化には、ボストン地区連銀のローゼングレン総裁が言及した短期国債を売って長期国債を買う「ツイスト・オペレーション(ツイストオペ)」も候補に含まれる。資金供給量を一定に保ったまま長短金利をそれぞれ逆方向に導く金融政策の手法で、バーナンキ元FRB議長の下で2011年に実施した実績もある。
ワクチン普及による21年央以降の景気加速を見込むとすれば、資金供給量が増加する買い入れ増額よりも、ツイストオペで「(長い期間の債券を買う)デュレーションリスクを低減させる方が、投資家に与える安心感が大きい」(米国債トレーダー)。資金供給量が一定のため、インフレリスクを抑えながら、長期金利の上昇も抑制できるためだ。6月と10月のように長期金利が1%に接近すれば日本の機関投資家の外債(米国債)購入が増加する。ツイストオペによるデュレーションリスクの低下は、米国外の投資家からみると米国債の買いやすさに直結する。
パウエル氏は11月のFOMC後の記者会見で「景気支援に向けて資産購入策を再検証する」と述べ、追加緩和策を匂わせた。インフレ率も上昇してこない状況で「金融緩和を止めるという過去と同じ過ちは繰り返さない姿勢を鮮明にした点は画期的だ」(投資会社のギルドインベストメント)と評価する声がある。
16日に講演したクラリダ副議長もFRBが目指す雇用と物価水準に米経済が戻るには何年も要するとの見方を示し、「インフレ率が持続的に2%を超える状況を確認するまで利上げはしない」と語った。FRB執行部がたびたび強調する緩和姿勢の長期化は、長期金利が新型コロナの感染拡大前の水準である2%近辺に戻るのは、数年の時間がかかる難しい課題だということを示唆している。(NQNニューヨーク 張間正義)