新型コロナウイルス感染拡大の第3波が欧米、そして日本において到来している11月、日経平均株価はバブル経済崩壊後の1991年4月以来29年半ぶりの高値を更新するという明るいニュースがあった。
一方、東京証券取引所第1部の上場企業を対象とする東証株価指数(TOPIX)は同時期の高値水準が2000を上回り、現在の水準(1778、26日時点)と比べて200ポイント以上の差がある。225銘柄で構成される日経平均と2000社を超える銘柄で構成されるTOPIXの指数の差を見る限り、日本企業の持続的な成長に向けて企業価値の向上をさらに促進していく必要があることを示している。
■企業価値向上に貢献する物差しとしてのESG評価
企業価値の向上に貢献する物差しの一つとしてESG(環境・社会・企業価値)評価がある。筆者は幸運にも現在のESG評価に通じる消費者の立場に立った企業評価を米国で初めて実施したスティーブン・D・ライデンバーグ氏の下で責任投資の調査・分析を行い、ESGに関する多くの知見を得る機会があった。
ライデンバーグ氏は、現在MSCIのESG部門であるKLDリサーチ&アナリティクスの共同創業者である。ライデンバーグ氏はKLDを創業する前の1986年に、労働環境の国際認証SA8000(Social Accountability 8000)を開発したことで知られるアリス・テッパー・マーリン氏らと「Rating America’s Corporate Conscience」を著し、日々の生活において消費するモノやサービスを提供している企業の評価を消費者向けに格付けした。その後、この格付けは「Shopping for a Better World」として出版され、当時の企業の社会的責任を評価するバイブルとしてベストセラーとなった。
企業の社会的責任を評価することは、30年以上前から消費者の関心事であったわけであるが、当時はその評価が企業価値にどの程度結びつくのかはあまり明確ではなかった。そのため、企業にとってもう一つの重要なステークホルダーである投資家は企業の社会的責任について積極的であるとはいえなかった。
しかし、ここ数年の気候変動や差別・人権、感染症(公衆衛生)といったESGやSDGs(持続可能な開発目標)において解決すべき社会共通の課題としての認識の広がりを受け、企業はESGを通じた企業価値の増大を意識するようになり、投資家は企業評価にESG評価を含めるようになってきている。
■ESGスコア高い企業の株価パフォーマンスは良好
アラベスクS-Rayでは、企業のESG評価に際し、評価するESG項目を22種類に分類し、数値化している。各企業の株価と22種類のESG項目を計量分析することで、株価とESG項目の相関を算出し、相関の高低により22項目をウエート付けし、スコアを算出している。
アラベスクS-Rayでは11月24日現在、世界の上場企業約8000社をスコアリングしている。ESG項目を数値化できるようになった2006年末から20年10月末までの株価とESGスコアのパフォーマンスを調べたのが「グラフ1」だ。結果は、アラベスクS-RayのESGスコアが高い企業ほど株価パフォーマンスは良好で、同スコアの低い企業の株価パフォーマンスは芳しくないことが分かる。
このグラフ1の「Universe」がアラベスクS-Rayでカバーしている約8000社の全体のパフォーマンスだ。この企業をESGスコア順に5分割し、最上位20%を「Q1」、上位20%が「Q2」、中位20%が「Q3」、下位20%が「Q4」、そして最下位20%が「Q5」となっている。
このグラフから、最上位の「Q1」の年率リターンとリスク(価格変動=ボラティリティー)が「Universe」や下位のグループに比べて優れていることが分かる。日本企業は10月末現在、160社ほどが「Q1」に含まれている。これらは世界の企業の中でもESGの取り組みに優れ、企業価値の向上につなげることができている日本を代表する企業といえる。
この傾向は、日本企業のみで分析しても同様である。グラフ2ではコロナ禍におけるESG評価と株価の関係を確認するために、2020年初めから10月末までの株価パフォーマンスをESGスコアのグループ(Q1~Q5)で分析した。
この期間のアラベスクS-Rayがカバーする日本企業は約570社である。日本企業においても「Q1」と「Q2」のESGスコア上位グループ(全体の40%=約220社)の株価パフォーマンスが日本企業全体およびESGスコア下位グループよりも高いことが分かる。
さらに、リスクについても上位グループの方が抑制されていることが分かる。またTOPIXと比べてみても、Q1とQ2の上位グループはアウトパフォームしている。
コロナ禍において、ESGの取り組みに力を入れている企業ほど高く評価されていると聞くことが多くなってきたが、この分析はその評価が裏付けられていることを示している。(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)
雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。