【QUICK Market Eyes 池谷信久】米連邦準備理事会(FRB)が11月25日に公表した米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨(11月4~5日開催分)では、米国債などの資産購入の枠組みの調整について議論されていたことが明らかになった。今後、追加緩和に踏み切るのか。市場の読み解きを探った。
■「株価が急上昇するなかで、FRBの資産購入の行方は?」=SMBC日興
SMBC日興証券の森田長太郎は「次回12月FOMCで資産購入のガイダンスを現在の『今後数か月』から延長することを議論したということ以外、その後の具体的な購入ペース、構成についての明確な示唆は得られなかった」と指摘。現行ペースでの購入継続長期化は織り込み済みであることから「ガイダンスによる購入継続へのコミットメント強化だけではイールドカーブのフラット化要因とまではならない」との見方を示した。
そもそも、追加景気対策の行方が全く見えないことから、「購入ペース、構成についての議論を12月の時点でもまだ具体化しようがない」ことに加え「前回のFOMC開催時から僅か3週間でS&P500指数が200ポイント近くも上昇しているという現状」に注目。FRBがより緩和的なバイアスを持つというより「現行緩和政策がワクチン開発期待と相俟って資産バブル的状況を生みつつあるという認識を強めるメンバーが増えてくる可能性もある」とみている。
そのため「緩和強化」の議論より、「株価上昇及び景気回復期待に伴う長期金利上昇圧力にFRBがどう対峙するかという議論にシフトしてくるのではないか」と指摘。そのような環境下で市場は「FRBを試しにいく動きになりやすく、ベア・スティープ化の動きがいずれかの時点で再び加速してくる」と予想していた。
■「FRBは追加緩和に喫緊性を感じていない」=野村証券
追加緩和の可能性を報じるメディアもあるが、野村証券の松沢中氏は「QEフォワードガイダンスを修正することには前向きだが、QE自体を増額したり対象年限を長期化したりする喫緊性は感じていない」と指摘。むしろ将来の出口論も視野に、「市場への悪影響を軽減するためのQE修正を検討している様でもある」として、「よほど想定外に経済・金融環境が悪化しない限り、12月FOMCでの追加緩和(QE長期化含む)は可能性が低い」との見方を示した。
米財務省がFRBの緊急融資プログラムの一部停止を求めたことと、経済対策審議の遅れが相まって、市場の一部で「FRB自身が追加緩和策を取ることを余儀なくさせる」との読みが出ていることについても、「疑って見ている」と言う。
その理由として、「このニュースが流れて以降も、ドル流動性指標やクレジット指標が悪化している様子が見えない」こと。また「もしこの段階でFRBが追加緩和サプライズによって経済や市場を救済してしまったら、政府・議会はメッセージを読み違え、FRB自身が求めている経済対策審議の合意や緊急融資プログラムの延長がより遠くなるリスクが高い」ことを挙げた。
一方、財務長官にFRBのジャネット・イエレン前議長が就任する予定になったことで、「緊急融資プログラムの延長や新設を検討する可能性が十分ある」と指摘。「その議論の帰趨と同氏の正式就任を待ってからFedが次の一手を考えることが自然であろう」と述べていた。
<金融用語>
スティープ化とは
スティープ化とは、一般的には、期間が長くなるほど金利は高くなるため、普通イールド・カーブは右上がりのグラフになる。このイールド・カーブの傾きがさらに急(右上がり)になることをスティープになる、スティープ化するという。逆に短期金利と長期金利の差が小さくなる(イールド・カーブの傾きが緩やかになる)ことをフラットになるという。