【日経QUICKニュース(NQN) 西野瑞希】外国為替市場で英ポンドが上値を試す展開となっている。英国と欧州連合(EU)の通商交渉などに対する楽観論がポンド買いを後押しし、対ドルで2カ月半ぶりの高値圏で推移するなど上昇基調が続く。EUを離脱した英国が加盟国と同等に扱われる「移行期間」が終了する12月末に向けて自由貿易協定(FTA)締結で合意にこぎ着ければ、今年の高値更新も視野に入る。
■楽観論じわり
ポンドの対ドル相場は今週初に一時1ポンド=1.3396ドルまで上昇し、9月上旬以来の高値を付けた。年初来高値である1.3481ドルの突破も視野に入る水準で、さらに強含んでいる。「EUとの問題が片付き政治事情の重荷が下りれば、瞬間的に1.35ドルを付ける場面もあるだろう」(岡三オンライン証券の武部力也氏)との声もある。
EUとの交渉は難航を伝えるニュースも多いが「最終的には合意に至るだろう」との楽観論を支えに上昇基調が続いてきた。24日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版によれば、交渉担当者らは「発効から数年後に協定の一部再検討を可能にする『見直し条項』の実現性を探っている」という。市場では「後から協定を見直せるとなると、より一層合意しやすくなるのでは」(野村証券の春井真也氏)との声が聞かれる。
対立が深いとみられているのが、英海域でのEU漁船の漁業権の問題だ。EUのバルニエ首席交渉官は27日、一部加盟国の漁業担当相と協議する予定で、発言に市場の注目が集まる。進展に期待が高まる内容であればポンドは一段と買われそうだ。
■上昇は一時的?
もっとも、交渉の先行きは予断を許さない情勢で、スナク英財務相が26日に「合意は可能だが、英国は犠牲を払ってでも署名するつもりはない」と述べたと伝わると、海外市場でポンド売りが広がる場面もあった。
足元のポンド高を支援した英製薬大手アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンについては、その有効性に疑念も出始めた。アストラゼネカのソリオ最高経営責任者(CEO)は追加の臨床試験(治験)の必要性に言及した。新型コロナの感染拡大で英国内ではロックダウン(都市封鎖)や制限措置が続き、制限対象者は人口の3分の1にあたる約2000万人にのぼる。景気回復への懸念が強まれば、ポンド売りが広がってもおかしくはない。
野村証券の春井真也氏は「EUとの交渉が近々合意に至れば一旦はポンド高が進むとみるが、その後は物流面などでの混乱が想定されることもあり、上昇は一時的なものとなりそう」と指摘する。足元では上昇基調が続くが、早期に歯止めがかかるリスクもある。