FTSE Russellは2020年1月、Transition Pathway Initiative(TPI)および英国国教会年金理事会(CEPB)とのパートナーシップのもと、新しい気候変動インデックスであるFTSE TPI Climate Transitionインデックスシリーズを発表した。
パリ協定の採択から5年近くが経ち、各国の政策立案者や投資家が低炭素社会への移行に取り組む中(森林火災が猛威を振るい、「グレタ・トゥーンベリ効果」も広がっている)、世界的な新型コロナウイルスのパンデミックを機にこれまでの世の中が根底から覆る「ニュー・ノーマル」時代が到来しようとは、我々は知る由もなかった。
だが、CEPBは環境や投資の状況の急速な変化を目の当たりにし、既に運用資産に対する長期的なスチュワードシップ責任に着目していた。
CEPBが低炭素経済推進イニシアチブのTPIと連携して、こうした課題の解決に役立つインデックスの開発をロンドン証券取引所グループに持ち掛けた理由もここにある。
その後わずか数ヵ月間で、同インデックスは責任投資原則(PRI)から名誉あるアワードを受賞し、英国国教会年金は常時保有してきた石油メジャー株の売却へとようやく動いた。これについては後で詳しく説明する。
上記インデックスが発表されてから、目覚ましい展開がみられている。
その前にまず、このインデックスの背景について触れておこう。その発表にあたり、CEPBは運用資産のうち6億ポンド(6億5,790万ユーロ)分で同インデックスをベンチマークに採用すると発表し、共同開発したFTSE RussellとTPIへの信頼の大きさを示した。
TPIは野心的なプロジェクトであり、我々はその支援ができることを誇りに思っている。同インデックスの発表以降、大きな躍進がみられた。現時点で、世界中のアセット・オーナー80社の支援を受けており、その運用・顧問活動の下、資産総額は合わせて21.7兆ドルを超える。
これらの機関投資家は、いずれもTPIの開発したツールとその分析結果を使うことを約束している。TPIは自らの投資調査の内容を公表し、投資家による企業へのエンゲージメント活動を支援し、アセットマネジャーの保有銘柄の追跡・管理をサポートする。
TPIのサポートを受けている投資家には、英国の代表的な年金基金(BT年金基金、鉄道年金の運用部門であるRailpen、英国大学退職年金基金など)や最大手のアセットマネジャー(Aviva Investors、Legal & General Investment Managersなど)も含まれている。さらには、カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)、Allianz、AXA、UBSをはじめとする国際的な投資家も名を連ねている。
TPIはロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのグランサム研究所と共同で運営されている。FTSE Russell がこの重要なイニシアチブにデータパートナーとして加わることを誇りとしているのもうなずける。
世界初
FTSE-TPI Climate Transitionインデックスは、パリ協定に準拠するように銘柄を選択した、世界で初めてのパッシブ運用向けグローバルインデックスである。
同インデックスは1年半をかけて開発されたもので、パリ協定に準拠した目標を公開している企業を高く評価する一方、準拠していない企業は大幅なアンダーウェイトにするか、構成銘柄から除外することにしている。TPIのフォワード・ルッキングなデータを組み入れるのはこれが初となる。
大規模なダイベストメント
CEPBは2020年10月に6億ポンド相当のパッシブ運用資産の保有銘柄をこの新しいインデックスに合わせて組み替える作業を終了した。通常こうした動きがニュースとして取り上げられることはないが、今回は違った。
CEPBのアダム・マシューズ(Adam Matthews)氏は「この結果、エクソンモービルはCEPBの保有銘柄から外れた」とLinkedInに投稿し、同銘柄はTPIによる最新の評価を反映させたインデックス基準を満たさなかったと説明している。
エネルギーセクターで進行する急速な変化を象徴するかのように、かつて世界最大企業だったエクソンモービルはもはや米国で最も企業価値の高いエネルギー企業ですらなくなった。風力・太陽光発電事業者の企業価値が高まっている事実は、世界的にグリーンエネルギーへのシフトが進みつつあることを示す証左といえるだろう。
マシューズ氏の言うように、「FTSE TPI Climate Transition インデックスは、CEPBがネットゼロ目標を達成するための重要な一歩である」。
PRIアワード
同インデックスがPRIの「2020年ESG incorporationアワード」に選出されたことは朗報である。今回は、PRI署名機関(その拠点は25ヵ国に及ぶ)による120近くの応募から選ばれた。
CEPBのマシューズ氏は、「セクター全体をダイベストメントの対象にする必要はなく、科学的・経済的な見地から脱炭素へのシフトを進めている企業とそうでない企業を選別すればよいことが示された」と述べている。
「これによって財務リスクを軽減しつつ、ベストプラクティス実践の動機づけになるほか、我々のスチュワードシップ活動の目標や、Climate Action 100+(CA100+)といったイニシアチブが掲げる目標の達成をサポートする。パッシブ投資は、投資家としての責任遂行に消極的であることを意味するものではない。」
同インデックスは「FTSE Russellの持つ気候関連データおよび専門的なインデックス設計ノウハウと、世界で二酸化炭素排出量が最も多い最大手企業の気候変動対策に関するTPI独自の分析を組み合わせたもの」である。
従って、(願わくは)パンデミックに伴うロックダウン後のよりノーマルに近い現実を人々が実感し始めるなか、世界的な気候変動というさらに深刻な脅威に立ち向かうためのツールが、いくつか確保できているのは安心材料といえよう。
※本稿は、レスポンシブル・インベスター(Responsible Investor)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。同社は、ロンドンに拠点を置く、世界の機関投資家に向けた責任投資、ESG、サステナブル・ファイナンスを専門的に取り扱うニュースメディアです。
<金融用語>
PRIとは
PRI(Principles for Responsible Investment: 責任投資原則)は、2006年発足当時の国連事務総長であるコフィー・アナン氏が、世界の金融業界に向けて提唱したイニシアチブ。機関投資家が、投資の意思決定プロセスや株主行動において、ESG課題(環境、社会、企業統治)を考慮することを中心とした6原則とその前文から成るもので、2006年に国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)が策定した。世界のアセットオーナー(Asset Owners)、運用機関(Investment Managers)、およびサービスプロバイダー(Professional Service Providers)にこの原則に対する署名を呼びかけ、2017年6月30日現在、アセットオーナー349、運用機関1,180、サービスプロバイダー224、総計1,753の機関(うち、日本は59機関)が参加している。 署名機関は専用のウェブサイトで様々な研究やキャンペーン、協働エンゲージメントなどの情報を利用することができ、より効果的、効率的な投資判断や行動ができる。署名機関には新規署名より1年経過後からレポーティングの義務が発生し、レポートはアセスメントによって評価を受ける。 日本の大きな動きとしては、安倍首相が2015年9月27日「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミットの演説の中で、世界最大の年金積立金を運用する日本のGPIFが、このPRIに署名し持続可能な開発の実現に貢献することを表明した。この前後から日本でもアセットオーナーの署名が増加し、国内の責任投資推進のきっかけの一つとなった。(QUICK ESG研究所)