【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾】外国為替市場で南アフリカの通貨ランドの上昇が目立っている。資源国通貨として買われ、対ドルで約10カ月ぶりの高値圏まで上昇した。新型コロナウイルスのワクチンへの期待が高まり、運用リスクを取る「リスクオン」の動きを背景にした堅調な資源相場がランド相場の追い風となっている。南アフリカは白金などの主要産出国として知られるが、白金の先物相場はこのところ上昇基調に拍車がかかっている。
■FCV需要増加で白金相場上昇
ランドは12月9日に一時1ドル=14.8ランド台と約10カ月ぶりの水準まで上昇し、15日の東京市場でも1ドル=15ランド近辺と高値圏での推移を保っている。ランドが買われているのは新型コロナのワクチン開発期待を背景に新興国にマネーが回帰したことが影響しているが、それに加えて南アフリカで産出される白金の需要の高まりも寄与したとの声が聞かれる。
足元では白金相場の上昇が続いている。国際指標となるニューヨーク白金相場は12月に入り心理的節目とされる1トロイオンス1000ドルを超え、その後もおおむね1000ドル台で推移する。岡地の田栗満氏は脱炭素社会への注目の高まりから燃料電池車(FCV)の需要増加が見込まれるとし、「FCVの触媒として使われる白金の使用量は多く、白金相場を押し上げる材料となっている」との見方を示す。
■経常収支の改善もランドの支援材料
英精錬大手のジョンソン・マッセイのリポートによれば、南アフリカは19年時点で世界の白金供給の7割超を占めるなど、同国にとって白金は主力輸出品だ。そのため白金相場によって国内景気が左右されやすい。振り返れば、15年には中国経済の減速などで白金需要が弱まるとの警戒が強まり、当時13年ぶりの安値圏までランド安が進んだ経緯がある。
南アフリカの経常収支が大幅に改善していることもランドを支えるとの指摘があった。10日に発表された7~9月期の経常収支は2975億ランドの黒字と市場予想を上回る結果となった。SMBC日興証券の平山広太氏は「白金など貴金属価格の上昇で輸出が堅調だった一方で、国内景気の停滞から輸入が停滞したため、経常収支が改善した」と指摘し、経常収支の改善もランドの支援材料として意識されていると分析した。
■資源国通貨、上昇基調は鈍化する?
同じ資源国通貨という点では、対米ドルで約2年半ぶりの高値を付けたオーストラリア(豪)ドルの上昇も目立つ。豪州は鉄鉱石を主に中国など輸出する資源国で、豪ドルは鉄鉱石相場と連動しやすい。国際相場の目安となるオーストラリア産・中国北部向けの鉄鉱石(鉄分62%の粉鉱)のスポット価格は12月中旬に1トン150ドル超と約7年9カ月ぶりの高値まで上昇しており、南アランドと同様に資源需要の高まりが通貨高の追い風となっている。
白金と鉄鉱石に共通するのはいずれも工業用需要が主で、世界の景気動向に相場が左右されやすい点だ。双方ともワクチン開発の進展が意識された11月以降に上昇ペースが加速した。そのためワクチン期待を織り込みつつある12月は上昇余地が限られるとの見方もある。あおぞら銀行の諸我晃氏は「最近の資源国通貨高は急で、一時的な調整リスクに警戒が必要だ」と話す。今後、資源価格の相場も停滞することになれば、足元の上昇基調が鈍化する可能性もある。