【NQNニューヨーク 張間正義】2020年最後の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備理事会(FRB)は米国債などを大量に買い入れる量的緩和(QE)の継続期間について、引き続き曖昧さを残した。QEの「出口」をみせず、テーパー・タントラム(緩和縮小をめぐる市場混乱)を避けることができたという点ではFRBに軍配が挙がったといえそうだ。
■逆に安心感
FRBは12月16日まで開催したFOMCで米国債などの購入量拡大や購入国債の年限長期化による追加緩和を見送った。市場では2割程度の確率で購入国債の年限長期化による追加緩和を予想する声があったが「肩すかしに終わった」(BMOキャピタル・マーケッツのイアン・リンジェン氏)として債券売りが膨らむ場面があった。
だが、売りは長くは続かなかった。FRBの量的緩和の継続期間に関する新たな指針で、従来は「今後数カ月」としていた文言を「完全雇用と物価安定の達成が十分に近づくまで購入を続ける」に変更。これまでもFRBが示す期間には曖昧さが指摘されていたが、変更後の指針でも「引き続き曖昧さが残った」(ウェルズ・ファーゴ証券チーフエコノミストのジェイ・ブライソン氏)。
FRBは8月、一時的に物価上昇率が2%を超えても一定期間の上昇率を平均2%とする「平均物価目標」の政策指針に修正している。今回の改定でも限りなく定性的(qualitative)なものにとどめた。経済情勢がどのようになったら購入ペースを変えるのかを引き続き曖昧にしたことが、現在のペースでの購入を当面続けるとの安心感を与えた面がある。「少なくとも21年いっぱい現在のペースを続けると市場はとらえた」(ウェルズ・ファーゴ証券のブライソン氏)。
曖昧さを残し、文言の変更を最小限にとどめたことで「QEは市場が想定するよりも早く終わらせる」とのメッセージが読み取れなかった。その意味で今回の改定は評価できそうだ。明確さを求めて文言を多く変更すると市場は疑心暗鬼となり、バーナンキ元FRB議長の緩和の早期縮小示唆が招いた13年5月のテーパー・タントラムのような金利急上昇を招きかねなかった。会合終了後の議長会見でも、資産購入の変更に関する雇用や物価について「正確な数字を伝えることはできない」(パウエル議長)と念を押した。
■「追加緩和を実施する柔軟性はある」
FRBは景気のソフトパッチ(一時的な足踏み)には対応しない姿勢をみせたことにもなる。新型コロナウイルスの感染再拡大で21年1~3月期までの景気は落ち込むものの、その後はワクチン普及による経済活動の正常化が見込める。年内に中小企業の給与支払いを肩代わりする給与保護プログラム(PPP)を含む7500億ドル規模の経済対策が決まれば、6カ月先は経済情勢が大きく改善しているかもしれない。FRBは「今後数カ月は(経済が)非常に困難となる可能性」(パウエル議長)があるにせよ、今は追加緩和で対応する必要はないと判断したもようだ。
これでFRBは追加緩和という武器を手元に残した。来春以降、想定した通りの経済回復が見込めなかった場合は「追加緩和を実施する柔軟性はある」(パウエル議長)。想定通りに経済が回復しても現在の購入量のペースは維持する。声明と同時に公表した政策金利見通し(ドット・チャート)では23年末時点までゼロ金利政策を継続する見通しを維持した。
金融緩和の持続性の鍵を握るインフレ率は当面、高まりそうにない。米国では新型コロナ禍で都心から郊外への人の流れが出ており、持ち家の帰属家賃を含む住居費が大幅に下落して「消費者物価指数(CPI)の本格的なディスインフレが強まる」(米国野村証券の雨宮愛知氏)との見方がある。仮に雇用が回復しても、インフレ率が高まりにくい状況は長期化するわけだ。パウエル議長は「QEの縮小については事前に余裕を持って伝える」とも指摘したが、その時期はかなり先になりそうだ。
<金融用語>
ドットチャートとは
米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが予想する、米国の政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートの水準を、それぞれひとつの点(ドット)として散布図化した「政策金利の見通し」のこと。毎年3、6、9、12月に米連邦準備理事会(FRB)が公表する。