【NQNニューヨーク=川内資子】29日のニューヨーク外国為替市場でドルは対ユーロで一時1ユーロ=1.2275ドルと2018年4月以来のユーロ高・ドル安水準を付けた。緩和的な米金融政策の長期化観測などを背景にドルの先安観が強いなか、バイデン次期米政権の財務長官に指名されたイエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長の、財務長官としての為替政策に関する思惑が交錯している。
※ユーロの対ドルチャート
■イエレン氏の姿勢はどちらに?
ドルの総合的な強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数は90前後と今月半ばに付けた18年4月以来の低水準近辺で推移している。米金融緩和の長期化観測に加え、新型コロナウイルスのワクチン普及で世界経済が正常化し投資家がリスクを取りやすくなるとの見方から、来年も流動性の高いドル安基調は続くとの見方は多い。ドルの先安観を映し、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉報告によると、21日時点の投機筋のドル指数の売越幅は1万4875枚と11年3月以来の大きさに膨らんでいる。
年末が近づき積極的な取引を見送るムードが広がるなか、来年1月20日に発足する米バイデン次期政権について頭の体操をする市場関係者は少なくない。米議会の承認が必要な閣僚の就任は多少遅れる可能性があるが、与野党議員からの信認が厚い「イエレン米財務長官」は円滑な承認が予想されている。
米財務長官は近年強いドルを支持する傾向が強かったが、ムニューシン現長官はドル高が米経済や企業の競争力を弱めるとみるトランプ米大統領と歩調を合わせてきた。イエレン氏は過去にFRB議長やサンフランシスコ連銀総裁として、ドル安の景気の下支え効果などを度々指摘した。それだけに財務長官として現長官のドル安志向を維持するのか、米長官としての「伝統的姿勢」であるドル高路線に戻るのかが注目されている。市場では「FRB関係者として物価や景気に対するドル安のプラス面を指摘しても、財務長官としては『強いドル』を支持する」(ジェフリーズ)との見方は多い。
■ドル高志向も根強く
最近は元米財務長官らからの次期長官への「助言」が目立つ。民主党のクリントン政権下で長官を務めたラリー・サマーズ氏は最近、「財務長官としてドル安志向やドルへの無関心さは賢くない」と述べたと伝わった。世界の金融システムでのドルの独占的な役割の重要性を説き、拡張的な財政政策を計画するバイデン次期政権下では「特に財務長官がドルの信認を保つためドル高を好むことが重要」と指摘した。
共和党のブッシュ政権時の長官であるヘンリー・ポールソン氏も9日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で、「中国が世界の金融センターとして力を増している」などと指摘した。新型コロナを受けた大規模な経済対策で米債務が拡大するなか、「ドルの価値が低下すれば米国は債務を返済できなくなる」と警戒感を示した。
米財務高官を長く務めた英シンクタンクの公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)のマーク・ソベル氏は「ドルに関する米財務長官の発言は長官の信認とレガシーに即時に影響する重要事項」と強調する。「イエレン財務長官」はドルに関して最も効果的にメッセージを発するため、「あえて当初は発言を控えるなど戦略を練る必要がある」と主張する。
ドル政策を巡る議論は、新政権の発足に向けて一段と盛り上がりそうな気配がある。