【NQNニューヨーク 岩本貴子】インターネット上の代表的な暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの価格変動率が上昇している。1月3日に過去最高値の1ビットコイン=3万4500ドル前後を付けた後、翌日には2万9000ドル前後まで下げた。2020年終盤にかけての上昇の勢いが一服しつつあるようにもみえる。
■「健全な調整で一時的なもの」
ビットコインのドル建て価格は20年、特に10月以降上昇の勢いを強めた。機関投資家による購入に加え、決済サービスのスクエアやペイパル・ホールディングスが利用者に対してビットコインの保有・売買をしやすくするサービスを提供し始めたことで流動性が高まったためだ。
ここにきての下げは短期的な利益を確定したい投資家の売りが背景とみられる。市場では「健全な調整で一時的なもの」と受け止められた。ニューヨーク時間4日午前には3万2000ドル前後まで急速に戻したものの、これまでの一本調子で上昇してきた局面には変化が出てきたようにも捉えられる。
■あふれたマネーの行き先
ビットコイン価格の上昇は、機関投資家の関心の急激な高まりが背景にある。カナダのデジタル通貨運用会社、3iQのトム・ロンバルディ氏は「過去に比べて投資家1人あたりの投資額が大きくなった。投資家の関心は引き続き高い」と話す。同社が運営する投資信託「ビットコインファンド」の取引価格は4日、上場しているトロント取引所で41ドルと20年4月の上場時の売り出し価格(10ドル)を大きく上回って推移し、4日時点の時価総額は7億ドルを上回ったという。
機関投資家らがビットコインへの投資に関心を高めているのは割高となった株式など伝統的な資産への投資が難しくなる中、各国中央銀行の金融政策による資金供給であふれたマネーの行き先を模索しているためだ。米連邦準備理事会(FRB)の低金利政策を受け、市場では21年もドル安基調が続くとの見通しが広がっている。基軸通貨とされるドルの価値の低下を警戒し、代替資産に資金が向きやすい。ビットコインと同じ暗号資産のイーサリアムも高値圏で推移している。
米CNBCが20年12月14~23日に100人の運用担当者を対象に調査したところ、新たな投資先として注目している資産として、ビットコインを挙げる声が多かった。著名投資家が関心を示したことなども受けて「ビットコインの市場そのものが拡大し、伝統的な機関投資家が資金を振り向けられる規模になりつつある」(ファンドストラットのデビッド・グライダー氏)ことも大きい。
それでも株式や債券に比べればまだ取引量が限られ、一部の投資家がまとまった売りを出せば4日のように大きく下げることは避けられない。まだ買えていない機関投資家も多く、「買いのタイミングを見極めようとしている」(ファンドストラットのグライダー氏)との見方も強い。機関投資家の本格参戦はまだ初期段階で変動率も上昇しやすく、新たな局面に入ったともいえる21年のビットコイン市場。代替資産としての地位を確立し、新たな投資家の資金を呼び込み続けることができるかどうかが相場を左右しそうだ。
<金融用語>
ビットコインとは
インターネット上の商取引の決済に用いる代表的な仮想通貨の一種。2009年から流通が始まったとされ、他の仮想通貨と同様、中央銀行が介在せず実物資産の裏付けがないのが特徴。専門の取引所を介して、円やドルなどとも交換できる。国境を越えた取引でも同じ通貨が利用でき、決済の手数料がほとんどかからないなどのメリットがある。 通貨単位はBTC。取引にはP2P(peer to peer、ピアツーピア)ネットワークと呼ぶパーソナルコンピュータなどの個人端末を直接結ぶ通信処理技術が活用されている。取引情報は暗号化され匿名データとしてネットワーク上に履歴が残る。通貨発行量(供給量)は約2100万BTCと上限が定まっており、通貨流通量も自動コントロールされる。 採掘(マイニング)と呼ぶ新たな通貨の発行は、偽造が事実上困難となる数式処理を駆使することで、すべての取引記録の正当性をチェックし台帳に追記する報酬として支払われる仕組みになっている。 ビットコインの売買は取引所によって価格が異なり、仮想通貨は株式投資におけるPER(株価収益率)などのような投資尺度をはかる目安がないため投資家の期待先行などで価格が大きく変動する傾向がある。投機資金が流入しやすいことに加え、匿名性の特徴から社会的に違法性の高い取引に利用されやすく、各国でその位置付けや対応が異なるなど、普及には決済通貨としての信用度に関わる課題がある。 日本では、2017年4月に改正資金決済法(仮想通貨法)が施行され、ビットコインをはじめとする仮想通貨サービスの適切化にむけた制度の整備が進みつつある。