【NQN香港=川上宗馬】香港株式市場に中国本土マネーが大量に流れ込んでいる。相互取引を通じた本土投資家の香港株の売買(南行き)は年明け以降、大幅な買い越しが続き、11日には過去最大を更新した。トランプ米政権による制裁で株価が下落した中国の大手通信株などに、本土投資家は「好機到来」とばかりに買いを入れている。
■ネット株から通信株
南行きの投資資金は4~11日の6営業日に1日当たりの買越額が100億香港ドル(約1340億円)を超えた。11日には単日では過去最大となる194億香港ドルの買い越しだった。20年に1日当たりの買越額が100億香港ドルを上回ったのはわずか4日だったので、足元の資金流入の規模は異例だ。
香港の相互取引は14年に上海との間でスタートし、深センとは16年に始まった。売買高は取引枠の拡大などで年々増加傾向にあり、これまで月間ベースでの香港株の買越額は20年3月に記録した1397億香港ドルが最も多い。21年1月は6営業日の累計ですでに850億香港ドルに達した。
相互取引では、これまで中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント、@700/HK)や出前アプリの美団(@3690/HK)など、中国本土に上場していない中国ネット大手株の売買が目立っていた。足元では中国移動(チャイナモバイル、@941/HK)など中国の通信大手の買いが膨らんでいる。
■規制強化は押し目の好機
背景にあるのが、中国移動、中国聯通(チャイナユニコム、@762/HK)、中国電信(チャイナテレコム、@728/HK)の通信3社に対する米国の制裁強化だ。トランプ米大統領は昨年11月に、米国投資家に中国人民解放軍との関係が深い中国企業への投資を禁じる大統領令に署名した。米国防総省の作成したリストには3社の親会社が含まれ、3銘柄には11月以降、嫌気売りが膨らんでいた。最大手の中国移動の株価は20年の高値(1月20日、70香港ドル)と比べ、3割以上も安い水準だ。
※2019年末を100としてテンセント、美団、中国移動、中国聯通、中国電信を指数化
年明け以降、ニューヨーク証券取引所(NYSE)による通信3社の米上場廃止を巡る混乱も生じ、3社の株価は乱高下した。結局、米投資家への中国軍関連企業への投資を禁じた大統領令は11日に発効し、NYSEでは11日から3社の米預託証券(ADR)の売買が停止された。
通信3社の株安は、一方では押し目買いのチャンス。「米投資家による売りが、米国以外の投資家にとって魅力的な投資機会を作り出した」と、米ジェフリーズは指摘する。中国本土の投資家は相互取引を使い、香港上場の中国移動株を4~11日にかけて計270億香港ドル買い越した。
UOBケイヒアンの梁偉源エグゼクティブディレクターは中国の通信株や石油株といった米国による制裁対象企業に対し「主に中長期の機関投資家が配当利回りの高さなどに着目して買いを入れており、長期的にこの傾向は続くだろう」と話す。中国移動の予想配当利回りは8%前後に上る。
中国移動や中国聯通はハンセン指数の構成銘柄でもある。中国本土マネーの流入が香港株式相場を支える構図がしばらく続きそうだ。