【NQNニューヨーク 川内資子】米議会上院で与野党の主導権争いが繰り広げられるなか、金融市場では追加経済対策を巡る動きを見極めたいとのムードが高まっている。追加経済対策の規模縮小の見方も広がりつつあり、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見でどのような認識を示すのか。投資家の様子見気分は強く、1月26日の米国債市場で長期金利の指標となる10年債利回りは前日と変わらずの1.03%で終えた。
■政策協議が滞る?
米上院の議席配分は与野党ともに50ずつ。ハリス副大統領が決定権を握るため事実上は民主党が過半を握るが、議会運営は別の話だ。通常は委員会長や委員会の人数、日程調整や協議の権利などで多数派が有利になるが、今回は同数だけにこうした詳細を与野党間で決める必要がある。内容次第で今後の政策協議の進めやすさが違ってくる。議席が同数だった2001年に結んだ、互いに権力を分け合う「パワーシェアリング協定」に近い形が予想されるが、民主党上院トップのシューマー院内総務と共和党上院トップのマコネル院内総務がここ数日、激しいやり取りをしている。
主導権争いに忙しい上院では閣僚人事の承認などを除いて政策協議が滞りがちだ。バイデン米大統領が提案する1.9兆ドル規模の経済対策に関しては反対する民主党議員も出て、規模の大幅縮小を予想する市場関係者が増えている。シューマー氏は失業給付の増額措置が切れる3月半ばまでに追加経済対策の議会通過を目指すとするが、2月8日以降はトランプ前大統領の弾劾裁判も始まる予定で議題は多い。米新政権や議会がどのように追加経済対策について調整し、いつごろ成立させられるのか、不透明感は急速に高まっている。
■「FRBの新指針が深く浸透していない」
年初の米長期金利の急上昇を促した大規模な経済対策への期待がしぼみつつあり、改めて注目が高まるのが米金融政策だ。イエレンFRB前議長の財務長官への就任が決まり、「バトンはパウエルFRB現議長からイエレン財務長官に返された」(米ウォール・ストリート・ジャーナル紙)と、米経済支援のかじ取り役が移行するとの声もある。これまで緩和的な金融政策で米経済を支えたFRBは役割をほぼ終えたとして、パウエル氏は元同僚のイエレン氏に財務長官として議会との調整役をこなし、追加経済対策を実現するように託すというわけだ。
ただ、FHNファイナンシャルのクリス・ロウ氏は「FRBは緩和的な金融政策の長期化観測を市場に定着させることで、まだ景気を支える役割を強化できる」と指摘する。ダラス連銀のカプラン総裁が年明けに量的緩和の縮小の議論開始について言及したのをきっかけに、市場の一部で緩和縮小が早まるとの思惑もくすぶっている。
パウエル議長は14日の討論会で「今は量的緩和縮小を議論するときではない」と述べた。だが、米国みずほ証券のスティーブン・リチウト氏は「FRBが昨年示した新指針が一部の市場関係者に深く浸透していない」と分析する。将来のインフレ圧力の高まりに予防的に対処するという従来の姿勢から、経済が過熱するまで緩和縮小の議論さえ始めないという姿勢の大転換だけに、FRBは粘り強く説明する必要があるとみる。
パウエル議長は27日の会見で改めて金融緩和の長期化を強調する可能性がある。債券市場は、追加経済対策と金融緩和策のバランスを見極める状態が当面続きそうだ。
<金融用語>
FOMCとは
FOMCとは、Federal Open Market Committeeの略称で和訳は米国連邦公開市場委員会。米国の金融政策の一つである公開市場操作(国債買いオペなどを通じて金融機関の資金需給を調節すること)の方針を決定する委員会のこと。FRSの構成機関である。 FOMCは、米国の中央銀行ともいうべき米連邦準備理事会(FRB)が開く会合で、FRBの理事や地区ごとの連邦準備銀行総裁で構成されており、米国の金融政策やフェデラルファンド(FF)レートの誘導目標を決定する最高意思決定機関である。約6週間ごとに年8回、定期的に開催される他、必要に応じて随時開催される。 声明文は、FOMC開催最終日(米東部標準時間午後2時15分頃)に公表、議事要旨は政策決定日(FOMC開催最終日)の3週間後に公表され、米国の金融政策を占ううえで市場関係者の関心が高い。