【日経QUICKニュース(NQN) 川上純平】英国の通貨、ポンドの上昇が止まらない。対ドルでは18日に1ポンド=1.3980ドル近辺と2018年4月以来、2年10カ月ぶりのポンド高・ドル安水準に浮上した。19日も同水準近辺での値動きが続いている。新型コロナウイルスのワクチン接種で先頭集団を走る英国の経済回復に期待した買いがポンド相場を押し上げているが、節目の1.4ドルを前にいよいよ高値警戒感が強まってきた。1.4ドル台にはチャート分析上の「壁」が立ちはだかり、ポンドの一段高を阻むとの見方が出ている。
足元にかけてのポンド高の原動力は、英国のワクチン接種が他国に先駆けて進んでいることだ。日本経済新聞社と英フィナンシャル・タイムズの集計によれば、英国の100人あたりのワクチン接種回数は19日時点で24.7回と主要国で最も高い。新型コロナの感染拡大で打撃を受けた経済が早期に回復するとの見方がポンドへの資金流入を促している。
■利下げ観測後退
ワクチンの普及に伴い、景気浮揚のための利下げ観測が後退しているのもポンドの追い風だ。英イングランド銀行(中央銀行)が3日までに開いた金融政策委員会の議事要旨によれば、マイナス金利の導入について「実施までの期間が6カ月よりも短いと運用上のリスクが高まる」として早期の導入には否定的な見解が示された。米ブルームバーグ通信によると、英中銀のソーンダース政策委員は18日に「早期に利下げする余地は非常に限定的」と述べた。
経済正常化を織り込む形で買われてきたポンドだが、上昇一服への警戒感も広がってきた。テクニカル分析手法の「フィボナッチ比率」で着目する比率の1つである「76.4%戻し」の水準が目前に迫っているためだ。
■節目重なる1.4ドル台
ポンドは、2016年6月の英国民投票で欧州連合(EU)からの離脱が決まる直前の高値(1.50ドル近辺)から20年3月の安値(1.14ドル近辺)を基準にすると、この間の下げ幅の76.4%を取り戻す水準が1.42ドル近辺にあたる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は「EU離脱は英国の国力低下につながるため、ポンドが離脱決定前の1.5ドルを回復するのは現実的ではない」と指摘。「1.4ドル台前半ではポンド売りが機能しそう」と読む。
1.42ドル近辺という水準は、2018年4月に付けたEU離脱決定後の戻り高値である1.43ドル台にも近い。当時はしばらく同水準近辺でもみ合ったことから、外為オンラインの佐藤正和氏も「1.4ドル台前半がチャート分析上の分水嶺になる」とみる。「1.4ドル台前半を上抜ければポンド買いが加速し、上抜けられなければ利益確定のポンド売りが膨らみやすい」という。
ワクチン普及による英景気の改善期待などファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)分析では「ポンド買いのリスクは現時点でほとんど見当たらない」(野村証券の春井真也氏)と強気の声も少なくない。足をすくわれないよう、チャート上にそびえる「壁」には気を配っておいた方が良さそうだ。