【QUICK Money World 辰巳 華世】テーパリング――。聞きなれない言葉にもかかわらず、なんとなく分かったふりをしてしまいそうになりませんか?しかし、今のグローバル市場では機関投資家やヘッジファンドから個人投資家まで市場関係者の大半が関心を向けざるを得ない大きなテーマの1つになっています。10日の米国市場では5月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想より上昇したが、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小を急ぐほどではないとの見方が強まり米長期金利が低下し、株式相場は上昇しました。そう、これは物価と金融政策に関係したお話になります。足元で神経質な展開が続くマーケットですが、中長期的な資産運用に軸足を置いた時、テーパリングが家計の資産運用に与える影響はどうなのでしょうか。
そもそもテーパリングとは何か
テーパリングとは「先細り」を意味する「taper」から派生した言葉で、中央銀行が実施してきた金融緩和政策を段階的に引き締め、終了に向かわせる手法のことを指しています。
各国には中央銀行と呼ばれる、国の金融機構の中核となる公的な銀行があります。日本では日本銀行、米国では米連邦準備理事会(FRB)を中心に複数の機関が分担して中央銀行の役割を担っています。
一般的に中央銀行は景気が後退する局面で政策金利を引き下げて(=金融緩和)、景気の下支えをします。政策金利をゼロ%近辺まで下げても景気が回復しなければ、これ以上、政策金利を下げられないので次の一手に出ることがあります。それは量的金融緩和政策と呼ばれ、国債などの金融資産を市場から大量に買い入れて資金供給をする政策です。
新型コロナウイルス感染拡大による経済や金融市場を安定させるため、2020年3月に米連邦準備理事会(FRB)は大規模な金融緩和を実施しました。最初は政策金利の引き下げをしましたが、結局、量的緩和政策も開始しました。
金融政策や政府の財政出動などが功を奏し、景気回復が確認されると、中央銀行は量的緩和政策を縮小させ金融政策の正常化を目指します。量的緩和政策の縮小とは市場からの多額の資産買い入れを段階的に減らしていくので、「先細り」を意味するテーパリングと呼ばれています。
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テーパリングによる株・債券への影響:金利上昇・株安か
足元の米国では、ワクチン接種が進み経済の正常化が近づいたことで、景気が回復しています。米景気の回復が加速していることで、市場ではFRBが2022年にかけてテーパリングを開始するという見方が多いです。一般的にテーパリングは中央銀行の国債などの買い入れが少なくなるので、需給が緩み長期金利は上昇(価格は下落)します。企業の借り入れコストにあたる長期金利が上昇するので、企業価値を反映する株価は安くなる、というのが教科書的な理解です。特に、米国で調達された資金が投資される新興国株の株式相場には、マイナスの影響が出るとされています。
ただ、今回のテーパリングが実施される頃には、市場は落ち着いた反応となり、影響は限定的との見方があります。
最近の米国市場では、米国の景気回復を確認する経済指標が発表される度に、FRBがテーパリング議論をいつ始めるかを推察し、その都度マーケットは反応しています。米労働省が5日に発表した5月の雇用統計が市場予想を下回ったことで、テーパリング議論を急ぐことはないとの見方から米長期金利は上昇(価格は下落)、米株は上昇しました。10日発表の5月の米CPIは市場予想以上に上昇しましたが、緩和的な金融政策は維持される方向との見方が強く米株相場は上昇しました。
市場が織り込めば過度な警戒は不要
マーケットとは常に思惑が先行して動き徐々に耐性を付けていき、実際にその時が来てみると既に影響は織り込み済みと落ち着きを取り戻しているいうことがよくあります。
また、FRBは過去にテーパリングを経験しているので市場との対話を丁寧に進めていくと考えられます。前回のテーパリングは2014年1月から開始されました。2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が議会証言で不意に量的緩和縮小の可能性に言及し、市場は一時的に動揺しました。しかし、市場は結果的にテーパリング開始を折り込んでいきました。そもそもテーパリングを開始できるのは景気が回復しているからであり、テーパリングを開始した2014年のダウ工業株30種平均は年間で7.5%上昇しました。
<米FRBのバランスシート(単位100万ドル)>
この先のマーケットでは、しばらくテーパリング議論によって、長期金利が上昇し、株安となる場面はあるかもしれません。ただ、実際に始まる頃にはある程度織り込まれていることが想定されます。また、テーパリングが開始できるほど経済は回復しているとも言えます。加えて、過去の経験もあるので、テーパリングに対して過度に警戒しすぎる必要はないのかもしれません。
米金利は、世界経済の中心である米国景気のバロメーターであると同時に、世界的なお金の流れやすさの指標でもあります。あらゆる資産価格に影響を与える指標ですので、今後も市場の注目が続くでしょう。
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投資に慣れてくると、機関投資家が相場にもたらす影響が大きいことに臨場感が湧いてくるけど、じゃー具体的にどんなことやってるの?となると知らない人が多いと思う。そーゆー意味では機関投資家に対する知見が広がる良記事。個人的にも勉強になった