【QUICK Money World 荒木 朋】会社の従業員や役員向けの報酬制度の1つとして、新しい技術やサービスで急成長を目指すスタートアップ・ベンチャー企業を中心に、ストックオプション(新株予約権)の導入が進んでいます。ストックオプションの仕組みなど基本的なことから会社や従業員にとってのメリット・デメリット、ストックオプションの権利行使の際のポイントなどについて詳しく解説していきます。
ストックオプションとはどういう制度?
ストックオプションとは、株式会社の従業員や役員が権利を行使できる期間(権利行使期間)内に、事前に決められた価格(権利行使価額)で会社の株式(自社株)を購入できる権利のことを言います。購入できる期間や数量にも一定の規定はありますが、その期間・範囲内ならストックオプション付与の対象者は好きな時に自社株を購入できる仕組みです。一般的に権利行使価額は、ストックオプション発行時の株価より低く設定されています。また、権利行使の開始期間を数年後に設定するケースがみられます。
ストックオプションを付与された従業員・役員にとっては、企業業績を拡大させて株価を上げることができれば、ストックオプションを行使し、取得した株式を売却した際に多額の報酬を手に入れることができます。業績アップへの努力・貢献が自己の利益に直接反映されるため、従業員・役員のモチベーション向上につながります。これがストックオプションを活用するメリットの1つです。また、自己資金で直接株式を購入するよりリスクが少ないほか、付与対象者や行使期間などに関する厳しい適格要件を満たすことで税制優遇措置を受けたストックオプション(税制適格ストックオプション)については、権利行使・株式売却で得られた利益に対する税負担の割合(20.315%)が一般的に給与所得の税負担(最大55%)と比べて軽い点もメリットです。
業績拡大とそれに伴う株価上昇が権利行使のモチベーションとなるストックオプション制度は、現時点で資金力がなく高額な給料を払うことが困難なスタートアップやベンチャー企業を中心に導入が進んでいます。東京証券取引所がまとめた「コーポレート・ガバナンス白書2021」によると、ストックオプション導入企業は東証上場銘柄全体の31.7%(2020年時点)ですが、東証マザーズ銘柄(現在の東証グロース銘柄に相当)は85.0%が導入。「連結売上高別にみると、連結売上高が少なくなるほどストックオプション制度を導入している比率が高くなっている」(東証)といい、新興・中堅企業がより導入する傾向にあることが見て取れます。
東京証券取引所作成の「コーポレート・ガバナンス白書2021」よりデータ抜粋(2020年時点)
ストックオプションを行使したほうがよいタイミングとは?
ストックオプションを行使するのにベストなタイミングとはどういう時でしょうか。もちろん、自社の株価が権利行使価額を大きく上回った時でしょう。株価が権利行使価額を大きく上回ったタイミングでストックオプションを権利行使し、取得した株式を売却することができれば大きな利益を得られるからです。
例えば、ある従業員が「1株当たり権利行使価額1000円で1000株まで購入可能、権利行使期間は1年後から5年間」というストックオプションを会社から付与されたとします。
同オプションが付与された後、1年後の権利行使期間が到来しました。その間、会社の業績は順調に拡大し、株価も堅調に推移する中で株価は5000円に到達したとします。そこで、その従業員がストックオプションの権利を行使(=1000円で1000株を購入)し、株式市場で取引されている5000円で売却した場合、「1株4000円の利益×1000株」で合計400万円の利益(税抜き)を得られる計算になります。権利行使期間の5年内にさらに株価が上昇し、そのタイミングで株式売却を行えばさらなる利益を獲得することができます。
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ストックオプションの行使で注意すべき点は?
ストックオプションの行使で注意すべき点は何でしょうか。
1つはストックオプションが付与された後、株価が下落した場合です。先に述べた通り、株価が上昇し、権利行使価額を大きく上回る状況になれば権利行使により多額の利益が獲得できる可能性が高まる半面、業績が振るわず、株価がそれほど上昇しなかったり、低迷してしまったりする場合には利益を得るチャンスを失ってしまいます。株価が下がった場合、ストックオプションの権利を行使しなければ損をすることはありませんが、インセンティブ報酬の側面があるストックオプションのメリットが失われてしまうのです。会社の不正発覚など従業員の努力とは別の要因で株価が大きく変動(下落)する可能性もあるため、自社に関連するニュースは常にチェックすることが重要です。
ストックオプションの付与は、会社の企業価値向上に貢献し、その結果として自社株式の売却に伴う利益を得るインセンティブ報酬のため、オプションを行使する際に付与した会社(もしくは子会社)の役職員であることが行使条件として定められることが一般的です。そのため、退職した場合はストックオプションの権利が失効する場合がほとんどです。
また、先のストックオプション行使の例でも述べた通り、権利行使期間が決まっている点にも注意しましょう。一定期間の範囲内でないと権利を行使できないため、とりわけ該当期間の自社の業績や株価動向はストックオプションを行使するか否かを決定する際の重要なポイントになります。そのため、自社の適時開示情報は常に注意深くチェックしておくことが欠かせません。
適時開示情報とは、株式の投資判断に重要な影響を与えうる企業の経営上の重要な情報・内部情報について、一般投資家に対して正確性に配慮しつつ速報性を重視して適時・適切に公表するものです。適時開示情報には、決算情報に加え、新株式の発行や自己株式の取得、株式分割、合併、業務提携・解消、災害に起因する損害や訴訟の提起、大株主の異動など様々な情報があります。いずれの開示情報も、株価の変動要因となりうる大きなイベントになる可能性があります。各情報をチェックすることで、ストックオプションの行使期間内における権利行使の有無や株式を取得した場合の売却タイミングを掴める重要な材料になります。
適時開示情報については、以下の記事で詳しく解説しています。
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ストックオプション、企業側のメリット・デメリットは?
最後に従業員や役員へのストックオプション付与は企業側にどのようなメリット・デメリットがあるか整理しておきましょう。
まず、優秀な人材を確保しやすくなる点が挙げられます。ストックオプションは将来的な株価の値上がりが大きな報酬につながるため、優秀な人材にとっては魅力的な報酬制度の1つになります。現時点で資金力が乏しい新興企業などにとっては、人件費を抑制しつつ従業員に高いインセンティブを与えられるという点もメリットです。従業員のモチベーションが上がることで、企業価値の向上を目指すという一致した目標を会社側と従業員が共有できる点も見逃せません。また、従業員が自己資金で自社株を購入する場合と違って、ストックオプションは株価が下落した際も権利を行使さえしなければ損失が出ないため、企業側も導入しやすい報酬制度の1つといえそうです。
半面、デメリットは何でしょうか。1つは業績悪化に伴う従業員のモチベーション低下のリスクです。ストックオプションは将来的な株価上昇で多額の報酬を獲得する仕組みです。業績悪化で株価が下落することになれば、ストックオプションの将来的な行使を目的に入社した従業員や役員にとってはその会社で働くモチベーションの低下につながりかねません。ストックオプションを付与されている従業員・役員と、そうでない従業員・役員が混在している場合も、報酬に関する格差拡大につながりかねない点でリスク要因になりうるでしょう。また、ストックオプションの権利行使が入社の大きなインセンティブになっている場合、優秀な人材が実際に権利を行使して多額の利益を得た後は会社を辞めてしまうリスクがあります。
まとめ
ストックオプションとは、自社株をあらかじめ定められた期間に、事前に決められた価格で取得できる権利のことです。会社の業績が拡大し、株価が上昇すれば、ストックオプションの権利行使・株式売却により利益を得ることができます。売却タイミングを間違わなければ多額の利益を得られる可能性があります。そのため、自社の適時開示情報をこまめにチェックするようにしましょう。
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