7月下旬に「動く拓郎」を見ることができました。光一君の『落陽』に続き、剛君が『人生を語らず』と言ったとき、私は色めき立ちました。ファンなら誰もが「もう一度歌ってほしい」と願っていたでしょう。このブログがそこから名前を借りたように、拓郎と言えば、『落陽』でも『今日までそして明日から』でもなく、『人生を語らず』なのです。
しかし、それが却下されたとき、「僕は君たちの思う通りにはならないんだってば」といういつもの拓郎を思い出した方もいらっしゃるでしょうし、リクエストした剛君自身も「イチかバチかの賭け」だったように思えます。『落陽』のギターに彼の愛を見ました。
さて、前回は、1970年代に戦後最大の危機を迎えた日本企業の取り組みについて述べました。今回は、日本企業の今後について考えてみます。
そして、現在:「モノの課題への回帰」は日本企業にとっての好機
時計の針を現在に戻してみましょう。
世界では、気候変動が新たな「課題」となり、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を中心に、取り組みが進みつつあります。その市場規模は世界全体です。
そして、ウクライナ危機が新たな食糧・エネルギーの問題をもたらしました。新たな「東西分断」により、食糧やエネルギー資源の生産が豊富で、他国に輸出できる国は、米国の側に付くのか、中国の側に付くのかの選択を迫られることになるでしょう。
気候変動対策と東西分断により、日本を含め、多くの国は1次産品の供給不足に直面したり、より一般的な製品の生産コストも上昇すると見られます。「物質的な平和」は終わり、世界は再び、「モノに関する課題」や「目に見える課題」の解決を求められています。その自然な帰結として、ディスインフレからインフレへと転換しつつあります。
他方で、日本は、食糧自給率が低く、エネルギー資源に乏しい、少子・高齢の国家であり、しかも、地政学リスクが極めて高い地域に位置しています。日本にとって、現在の危機の程度は、戦後最大の危機であるオイルショックを上回るでしょう。
新型コロナウイルス、気候変動、食糧やエネルギーの調達、世界の分断、地政学リスク、高齢化といった逆境は、日本が最も豊富に有していると言えるでしょう。成長は、逆境から生まれます。
また、インターネットやプラットフォームとは違い、(世界市場が共有する)今般の気候変動や食糧・エネルギーの調達、(やがては他の先進国でも共有される)高齢化、言い換えれば、省エネや省力化の問題は、日本の企業にとっては得意な「見える課題」です。
加えて言えば、現在、欧米諸国では賃上げを求めるストが相次ぐ一方で、日本の物価や賃金の伸びは相対的に抑制されています。それは、1970年代と同様、我々家計に痛みを与えながらも、国際競争の観点では日本に優位性をもたらしています。
もちろん、この一方で、今後、世界じゅうに高い生産性の伸びをもたらすような産業技術が日本国内で今蓄積されなければ、現在の賃金の抑制は過去20年と同様に生産性の低迷と整合性を持つのみで、国際的な競争力の上昇をもたらしません。
食糧やエネルギーの乏しさや、準備通貨としての円の地位が低いことを踏まえれば、日本には高い交易条件が必須でしょう。高い技術力がなければ「高く売れるもの」がなく、我々が交換に得られる食糧やエネルギーの量も少なくなってしまいます(→ただし、日本が安全な独立国家として歩んでいくには、付加価値の高い財やサービスを生み出すだけでは不十分でしょう)
日本の企業が「見える課題」にひとつずつ対処していけば、技術と競争力は蓄積されます。ただし「企業とは、その構成メンバーである我々自身」です。企業や社会のメンバーひとりひとりが「危機を認識し、これを共有できるかどうか」が、我々自身の現在と未来にとって最も重要なカギとなるでしょう。
脱炭素と日本企業の強み:海外投資家が静かな今が投資の機会
脱炭素や食糧・エネルギーの調達といった「モノの課題への回帰」と日本の危機、日本企業の得意分野、物価・賃金や円安など価格面での優位性などを考えると、省エネや省力化の分野で高い技術力をすでに持つ、あるいは今後持つと期待される日本の一部の成長企業には、世界を再び大きくリードするチャンスが訪れているでしょう。
中でも、中心的なキーワードである「脱炭素」に関する技術や投資テーマとしては、洋上風力・太陽光・地熱、原子力、自動車・蓄電池、水素・燃料アンモニア、半導体・情報通信、物流インフラ、航空機、カーボンリサイクル・マテリアル、次世代電力マネジメント、資源循環関連といったものが挙げられます。
これらのうちで、日本の企業に優位性があるとされる領域に焦点を絞ると、素材や要素技術に近い分野になるでしょう。一例としては、蓄電池や、(化石燃料由来でCO2を回収・貯蔵する)ブルー水素やアンモニア、(再生エネルギー由来の)グリーン水素やアンモニアの製造技術などが挙げられます。
最後に、日本の成長企業に資金を投じる投資家の立場で考えてみましょう。
大幅な円安にもかかわらず、次世代の技術力で優位性を持つ一部の日本企業が買われない理由のひとつは、世界的な金融引き締めや景気後退への懸念によって、投資家のリスク・アピタイトが一時的に落ちているということがあるでしょう。世界景気が鈍化すれば、世界市場を相手にする、日本の成長企業の業績も鈍化します。
景気に先立つように、やがて彼らのリスク・アピタイトが戻ったら、彼らはどうするでしょうか。我々は、彼らが円安のチャンスを利用できない今、「先回り」することができます。
気候変動、世界の分断や食糧・エネルギーの危機、そして「モノの課題」への回帰は、日本の成長株投資にとっての好機です。世界の分断と円安は、日本の技術力の「囲い込み」と生産拠点としての日本の魅力が再確認されるきっかけになる可能性もあるでしょう。その主役のひとつは、脱炭素の技術を持つ日本の成長企業でしょう。
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