岸田政権発足以来、「新しい資本主義」が叫ばれている。行き過ぎた新自由主義を是正して、富の偏在を緩和し経済成長の成果をより公平に分配することを目指すものだろう。岸田政権が提示する政策メニューがふらついたこと、その新規性や実行力への懐疑などもあって市場関係者の評価はあまり芳しくない。
8日に発表された8月のQUICK月次調査<株式>では、岸田政権の重点政策への評価を質問した。回答者の意見は割れたが、最も期待される政策は「資産所得倍増プラン」の30%で、二番目は「賃金引上げの促進」の23%だった。賃金引き上げの促進として最も期待される施策は「労働移動の円滑化・リスキリング教育」の34%だ。日本経済と日本企業の再生には労働者が再教育を受けながら付加価値が高く高賃金のセクターに移動していくことが必要なのは明らかだ。これができずに30年が過ぎてしまったのだが、日本には新自由主義以前に普通の資本主義が足りないのではないか。
QUICK月次調査<株式>8月調査より
今回の調査では経済産業省の最近のリポート「経済産業政策新機軸中間整理」で検討されている企業経営改革についても質問した。政府や民間団体による原則や基準、提言が乱立しており、企業や市場関係者は食傷気味だろう。このリポートの存在を知っていた回答者は31%しかいなかった。リポートは、PBR(株価純資産倍率)が1倍未満の企業に対して改善計画書の作成と公表を求めるとしており、今までにない踏み込み方である。この取り組みについて「建設的な対話が深化するので賛成」との回答が34%と最も高かったが、「PBRという指標がよいか要検討」が25%、「行政は企業経営に介入すべきではない」が17%などと回答は割れていた。
QUICK月次調査<株式>8月調査より
なぜPBR1倍割れが問題なのか。純資産は投資家が企業に託しているリスク資金と見なせる。そのリスク資金で行っている事業の価値が株式時価総額だ。PBR1倍未満は、投下した資金の価値が毀損されていることを意味する。7月末で測定してみるとプライム企業の49%が価値毀損である。価値毀損額が1兆円を超える会社は8.8兆円を筆頭に23社ある。これらの会社の経営者に1兆円以上の価値毀損を起こしているという自覚はあるのか。
新中期経営計画を発表した翌日の株価急落に驚いて、直ちに要因分析を行った伊藤忠商事の岡藤正広会長、「今の株価、私には耐えられん」と言ってCEOに復帰した日本電産の永守重信会長。市場に真正面から向き合う経営者でなければ企業価値は向上できないのではないか。
調査は国内機関投資家の運用担当者など209人を対象に実施し、120人が回答した。調査期間は8月2~4日。
【ペンネーム:浪小僧】