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2023年の米金融政策の図解とわからなさ(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2022/11/30 12:00 最終更新日 2022/12/14 19:05 米国・欧州 米景気 金融政策 資産運用 インフレ 米国株 米金利 フィデリティ QT FRB

2023年の米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策と長期金利の動向はパターンがたくさんあって複雑です。長期金利がカギを握る「成長株か、割安株か」といった選択については、両者に十分に分散しておくのがよいでしょう。

「十分に分散するなら、S&P 500などのインデックスファンドでよいのでは?」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

市場インデックスは大型テクノロジー株式を含むため、成長株式の割合が大きくなっています。逆に、割安株式の割合は小さいですから、対策としては「割安株式のファンドを個別で保有するか、多めに配分することで、金利感応度を中立に近づけられる」でしょう。

2022年のレビュー:最後までわからなかったインフレの動向

マーケットのテーマはこのところずっと変わりません。われわれは引き続き、「2つのわからないこと」に直面しています。すなわち、「インフレ」と「米国の金融政策」です。

参考までに現在、(FRBがターゲットとしている)PCEコア・インフレ率は5.1%(前年同月比)です。

※米国のインフレ率(食品・エネルギーを除く)の推移

整理するために、今後のパターンを【図】に示すと、次のように要約できます(→解説はすぐあと)。

※今後の2つのわからないこと:①インフレ ②FRBの対応

まず、【図】の【上】に行きましょう。今後まもなく、インフレ率が毎月のように鈍化していけば、FRBは来年早々にも利上げを止め、その次の一手として「利下げ」が視野に入るでしょう。利下げの理由は、「インフレ率が鈍化したことによる実質金利の調整」か「景気後退」です。

次に、【図】の【下】に行きましょう。今後まもなく、インフレ率の上昇は止まるものの、(インフレ率が)「高止まり」すれば、FRBは、①利上げをいったん停止して様子見に転じるべきか、②利上げを継続すべきかの選択を迫られます。

2023年前半の注目点:「利上げ継続か、いったん停止か」は、株価次第

2023年前半の注目点は、FRBが、①利上げをいったん停止して様子見に転じるか、②利上げを継続するか、の選択です。

今年これまでのFRBとマーケットとの「キャッチボール」を見ている限り、FRBにとって、①利上げのいったん停止か、②利上げ継続かの選択にあたって重要なのは、株価だろうと思われます。

※S&P500の推移(週次)

マーケットが「やはり景気後退は来ない!」とばかり株価が戻り調子であれば、②利上げは継続されるように思えます。

反対に、「やはり景気後退に行ってしまうんだ・・・」とばかり株価が低迷していれば、FRBは「インフレのリスクは後退している」と見て、①様子見に転じるように思えます。

最近のマーケットの動きはかなり厄介です。FRBの理事や連銀総裁が「利上げ幅の縮小」をほのめかすと、長期金利が低下して株価は急速に値を戻します。

FRBの立場で考えれば、株価が戻り調子になると、「景況感が回復してインフレ圧力が残る可能性」を考えなくてはなりません。いわば、せっかく引き締めを行ってインフレ懸念をいくぶん解消させたのに、その政策努力の一部が無駄になってしまっています。最近のマーケットの反応を見る限り、「利上げ幅の縮小を明言することは、インフレ抑制にとっての悪手」に見えます

FRBが真にインフレ抑制を優先しているなら、たとえ利上げをいったん停止するときでも「今後のさらなる大幅利上げを排除しない」ことを伝えるように思えます。言い換えれば、「長期金利が低下しすぎないような、株価が戻りすぎないような金融政策のスタンスを明確にする」ように思えます。

とはいえ、投資家にとってみれば、FRBが、①インフレリスクを取って様子見に転じ、株価にやさしい政策を取るのか、②景気後退リスクを取って利上げを継続し、インフレを抑えにいくのかがわからないので、いまは「株か、国債か」「グロースか、バリューか」を決め打ちせず、分散投資の継続が必要と考えられます。

2023年のわからなさ:「政策金利据え置き」の後に思い出されるのは、2006-2007年の動き

2023年に入り、仮に、②利上げ継続となれば、利上げの終着点(ターミナルレート)が上がるので、長期金利は上昇するでしょう。

反対に、①利上げをいったん停止して様子見に転じると、【次の図】の【右側の赤線で囲んだ部分】に示すように、その後のインフレが収束するかしないかで、A.利下げなのか、B.次の一手が利上げなのか(=利上げ再開なのか)が決まります。

※利上げをいったん停止してもわからないことは残る

仮に、A.利下げなら、インフレは収束していますから、長期金利は低下するでしょう。

反対に、B.利上げ再開なら、インフレは収束していませんから、利上げの終着点(ターミナルレート)がふたたび上がり、長期金利は上昇するでしょう。

ようは、「長期金利の動きはまだまだわからない」ということです。

その「わからなさ」をよく表すものとして、(筆者が鮮明に覚えている)2006-2007年のケースで言えば、FRBは、2006年6月に政策金利5.25%で利上げを停止した後、マーケットは「次は利下げだ」ということで、長期金利は4%台前半まで低下しました。

しかし、インフレ率が収まらず、「むしろ、次は利上げではないか」「様子見が思ったより長く続くのではないか」ということで、長期金利はふたたび上昇し、投資家は右往左往しました。

※米国の長期金利とFRBの政策金利の推移

2023年後半以降の注目点:「政策金利据え置き」後の道のりは長いかも・・・分散投資が基本

時計の針を現在に戻せば、仮に、(現在は3.75-4%である)政策金利の「真のターミナルレート」が6-7%であったとしても、筆者は、FRBがこの先、政策金利を6-7%まで一気に引き上げることはなく、おそらく、どこかでいったんは「据え置き」に転じると見ています。

そして、いったん据え置きになったら、通例どおり「次は利下げだ」とばかり、長期金利には低下圧力が生じる可能性があります。しかし、2006-2007年の例が示すとおり、まだそこに至っても、「その先はわからない」と考えておくべきでしょう。

株式市場はまだまだ流動性が潤沢です。政策金利よりもインフレ率のほうが高く、実質政策金利はマイナスです。FRBによる資産圧縮(QT)も始まったばかりです。

※FRBの保有資産の推移

今後、たとえばFRBに加え、欧州中央銀行(ECB)なども資産圧縮(QT)の輪に加わり、本格的な引き締めが進むまで、景気も金融政策も明確な方向性は見えないかもしれません。
「早く景気後退が来てくれれば話は早い」のですが、そうも行かず、道のりは長いかもしれません。

引き続き、幅広い資産での分散投資が求められます。

 


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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