【日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行】8日の東京外国為替市場で円高・ドル安の勢いは続かなかった。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の発言をきっかけに金融引き締め観測がやや後退したとして円買い・ドル売りが優勢となった。しかし、パウエル氏の発言は金融政策の先行きを確約しない玉虫色とも呼べる内容だ。経済データ次第で想定を超える利上げが続く可能性もあり、投資家は次の注目材料である1月の米消費者物価指数(CPI)を見据えている。
パウエルFRB議長は7日のインタビューで「ディスインフレのプロセスが始まった」との考えを改めて示した。雇用者数の伸びが50万人を超えた1月の米雇用統計を受け、政策スタンスに変更があるのではないかとの思惑が広がっていただけに「従来の姿勢と大きく変わっておらず、持ち高調整の円買いを誘った」(国内銀行の為替ディーラー)。
それでもパウエル氏の発言の受け止めは一様ではない。別の国内銀行の為替ディーラーは「どちらかというと、(金融引き締めに前向きな)『タカ派』的だった」と振り返る。パウエル氏はインフレが実際に落ち着くには時間がかかり、「政策金利を抑制的な水準でしばらく維持する必要がある」とも語ったためだ。
ディスインフレに言及しつつも、金融環境を引き締める姿勢は後退させない。そんなパウエル氏の発言で、外為市場では「経済指標の良しあしによって利上げ到達点や年内利下げの有無を巡る織り込み度合いが変わり、円相場は上下に振れる展開が続く」(外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長)というのが共通認識となりつつある。
そこで市場が注目するのは14日に発表される1月の米CPIだ。前回2022年12月分の米CPIは前月比0.1%下落と市場予想と一致。インフレのピークアウトを意識させる内容となり、円相場が1ドル=127円台に向けて上昇したのは記憶に新しい。
今年1月分はどうか。金融情報会社リフィニティブがまとめた市場予想は前月比0.5%上昇となっている。一方、米クリーブランド連銀がリアルタイムデータからCPI結果を予測する「インフレーション・ナウキャスティング」によると、1月は前月比0.63%上昇と市場予想を上回る伸び率になる見込みだ。
野村証券の小清水直和シニア金利ストラテジストは「CPIにマイナス寄与してきた中古車価格の下落に一服感がある」と指摘する。実際、米マンハイムが公表する中古車の卸売価格指数は1月が224.8と昨年11月(217.6)を底に再び上昇してきている。
さらに米連邦公開市場委員会(FOMC)が物価動向を把握するうえで重視している「家賃を除くサービス」を明確に低下させる要因は現時点で見当たらず、小清水氏は「1月のCPIだけで米利上げ停止を決定づける可能性は低い」とも予想する。
パウエルFRB議長の発言をきっかけに7日のニューヨーク市場で130円47銭まで上昇した円相場は、8日の東京市場では一時131円38銭近辺まで押し戻された。方向感が出にくく「積極的なポジションを取る投資家は少ない」(国内銀行の為替ディーラー)といい、決定打には欠けたとみる参加者は多いようだ。