キリスト教のイースターとユダヤ教の重要行事パスオーバー(過越祭)が重なった7日。米労働省は3月の雇用統計を発表した。非農業部門就業者数はほぼ予想通り。米雇用統計は毎月12日を含む週に調査するため、10日のシリコンバレーバンク(SVB)破綻の影響が注目された。失業率は3.5%に0.1ポイント改善。労働参加率は62.5%から62.6%に上昇。第1四半期(1~3月)の平均賃金の伸びは前年同期比3.8%と、2020年第4四半期(10~12月)以来の低さを記録した。
JPモルガンのエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は7日付けのメモで、米雇用統計について「米経済が近くリセッション(景気後退)入りするとの懸念を抱かせるものはなにもなかった」とコメント。米連邦公開市場委員会(FOMC)が5月に0.25%利上げし、その後に停止するとの予想を維持。6月以降の追加利上げリスクは非常に低いとの見方を示した。バンク・オブ・アメリカ証券は7日付けレポートで、FRBの6月利上げ見通しを転換、5月3日の会合で利上げは打ち止めでターミナルレート(最終到達点)は5~5.25%になると予想した。
米短期金利先物市場の値動きから政策金利を予想する「フェドウォッチ」によると、米連邦準備理事会(FRB)が5月に0.25%利上げする確率は雇用統計発表後に71.2%に上昇、1週間前の48.4%から大幅上昇した。フェドウォッチは、6月会合の据え置き確率は約7割、7月の利下げを50%程度織り込んでいることを示唆している。
米雇用統計は労働市場の堅調さを示したものの、米経済の減速を示すデータが4月に入り相次いだ。景気先行指標とされ注目度が高いISM(サプライマネジメント協会)製造業景況感指数は予想を下振れ。特に新規受注が非常に弱かった。ISMのサービス業指数も需要の冷え込みを示唆。2月の求人数は2021年5月以降で初めて1000万人割れ。建設支出と新車販売台数でも景気減速が示された。アトランタ地区連銀の「GDPナウ」は5日、第1四半期の米国内総生産(GDP)予測を3日時点の1.7%増から1.5%増に下方修正した。米国の個人と多くの企業の所得申告は期限の18日を控え最終局面、中小企業の業績悪化が目立ち景気悪化を実感すると知人の会計士は言う。
FRBの積極利上げで長期金利の指標となる米10年物国債利回りは3月初めに4%を突破。3.5%程度まで下がったものの、2020年夏より3%程度高い水準。ブルームバーグ通信によると、ゴールドマン・サックスのストラテジストは、近く始まる米国の決算シーズンは新型コロナウイルス(疾病の世界的流行)以降で最悪となる予想した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、債券利回り上昇と企業業績悪化を背景に米株式の魅力が後退したと報じた。S&P500構成企業の収益率と米10年物国債の利回りの差であるエクイティ・リスク・プレミアムは約1.59%と、2007年以降で最低水準。2008年以降の平均値3.5%より大幅に低く、株式市場の試練となるとしている。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、米国の投資家が海外株式への投資を増やしたと伝えた。金融危機以降に米株のパフォーマンスは他の先進国と新興国を大幅に上回ったが、トレンドの巻き戻しがはじまったとしている。米国のファンドマネジャーは欧州株や中国株への投資を増やし、米景気低迷への警戒で10年以上に渡る米国株独占が終焉を迎えると解説した。FTは別の記事で、SVB破綻を受け米地方銀行の決算悪化に備えたオプション取引が増加したと報じた。米地銀の決算発表で金融市場は再び荒れる恐れがあるとしている。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。