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米デフォルトの終末シナリオ、頭よぎる2011年の悪夢 LA発ニュースを読む

米3大TVネットワークの14日朝の報道番組はいずれも移民問題を特集。新型コロナウイルスの緊急事態解除で移民制限措置「タイトル42」が失効、中南米から移民希望者が殺到した。移民問題は2024年米統領選の争点の1つになると予想される重大な政治問題だが、バイデン政権はもう1つ深刻なリスクに直面している。グーグル・トレンドで「債務上限2023」「デフォルト(債務不履行)」の検索が急増。特に首都ワシントンと隣接するバージニア州での検索が多い。幅広い層に影響するため、連邦債務上限引き上げ問題への関心が高まっていることを示唆している。

現時点で法律が定める米連邦政府の債務上限は約31兆4000億ドル。政府の借金が増えて今年1月に上限に達したため、米財務省は臨時に資金を確保する特別措置を実施している。イエレン財務長官は、6月1日にも緊急措置が行き詰まり、デフォルトに陥るリスクがあると繰り返し警告。議会予算局(CBO)は12日、6月の最初の2週間中に「Xデー(デフォルトに陥る日)」が訪れるリスクがあると警鐘を鳴らした。今年2回目の米企業と個人の予定納税日は6月15日。追加税収が見込まれるが、それまで持たない恐れがあるというのがCBOの見解だ。

Xデーが訪れたらどうなるのか。米国の破綻を示すわけではなく、テクニカルなデフォルトだが、現実になれば大きい影響が予想される。CNBCは、過去に例がないため不明なことが多く、政府も見通しを明確に示していないため、どうなるかは憶測の域をでないと前置き。その上で、公的年金、高齢者の医療費補助、子供の医療保険などの支払いを停止、さらに税還付金、低所得者への食費補助(フード・スタンプ)、判事や兵士を含めた連邦職員の給与、退役軍人への年金、国防省の契約業者に対する支払いができなくなる可能性があるとしている。米国債の金利支払いと償還は優先されると予想されるものの、投資家はパニックになる恐れがあるとの指摘があると伝えた。

ワシントン・ポスト紙は、債務上限引き上げに失敗した「『終末の日』の7つのシナリオ」と題する記事を掲載した。株式クラッシュ、連邦職員が路頭に迷う、突然のリセッション(景気後退)、年金支払い停止、米国の借入コストの急上昇、経済問題の世界波及、そしてドルと米国の信認低下の7つの最悪シナリオをエコノミストが警告したとしている。基軸通貨のドルは世界の為替取引の約60%を占めるが、ブラジルやマレーシアがドル以外の通貨による貿易決済を増やしたように、世界がドル依存を減らすリスクがあると伝えた。

頭に「2011年の悪夢」がよぎるベテラン投資家は少なくない。オバマ政権と与野党の協議でXデーの2日前に債務上限の引き上げで合意したものの、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(現S&Pグローバル・レーティング)は米国の格下げに踏み切り、世界の金融市場は大きく動揺した。民主党大統領とねじれ議会だった2011年は大統領選を1年後に控えていて、今の政治環境は12年前と共通点が多い。

米USAトゥデイ紙は、2011年の交渉を知る議会関係者が「2011年より怖い状況」と指摘したと報じた。共和党は支出削減を政権に求める一方で、民主党は予算については別問題で無条件の債務上限引き上げを主張、交渉らしい交渉がないと指摘したとしている。議会専門紙ザ・ヒルも、状況は2011年より悪いと伝えた。トランプ前大統領を含め目的達成のためデフォルトを容認すべきとの主張が共和党内に複数あり、マッカーシー下院議長の譲歩する余地はほとんどないとしている。

ダウ・ジョーンズ傘下のマーケット・ウオッチによると、2011年の金融市場はボラティリティーが高まった。株価は2011年5月から10月にかけ20%以上下落。ヘッジ先として金は買われ、2011年5月はじめから8月中旬までの間に金のETF(上場投資信託)は20%上昇。債務上限問題への警戒で米10年物国債利回りは2011年5月に3.2%だったのが、10月に1.80%まで低下した。

2011年との類似点が多いが、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の方向は異なる。リーマン・ショック後の2011年はFRBは金融緩和スタンスにあったのに比べ、いまはインフレ抑制のため引き締めスタンス。金融政策をめぐる観測も寄与し米債券市場は不安定。景気後退や企業業績悪化への警戒感も加わり、米株式市場は上値の重い展開。外国為替市場は状況を見極めようとしているようにみえる。米債務上限問題をめぐる動きと憶測が目先の金融市場を動かしそうだ。

 

(このコラムは原則、毎週1回配信します)

福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。

   
  

著者名

松島 新


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