ニューヨークを拠点にする証券ブローカーの知人。5月末に「ナスダックが上昇トレンドに入った」とのメッセージを顧客投資家に発した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ停止観測、企業の約8割が予想を上回る決算を発表、地銀株の下落に歯止めがかかったことなどを背景に、株価変動が縮小しチャートが三角形のような状態になる「三角保ちあい」をナスダック総合株価指数が上抜けたと指摘した。
ナスダックは週間ベースで6週連続上昇。2020年以来の連続記録で6月第1週の取引を終えた。2日のS&P500種株価指数は前日比1.45%上昇。上値が重かったダウ工業株30種平均は2日の取引で1月以来となる強いパフォーマンスを示し、前日比701ドル(2.12%)高で引けた。小型株で構成されるラッセル2000指数は3.56%高と急伸した。
CNBCは、強い米雇用統計と債務上限法案の通過で米国のデフォルト(債務不履行)が回避されたことを投資家が好感したと報じた。5月の雇用統計は景気を反映する非農業部門就業者数が33万9000人増と、ダウ・ジョーンズがまとめた予想中央値19万人増を大幅に上回った。平均時間あたり賃金は前年同月比4.3%上昇と、市場予想4.4%を下振れた。USバンクのストラテジストは、CNBCに対し「ゴルディロックス(過熱せず冷え込みもしない状況)で、ソフトランディング(軟着陸)の可能性が高まった」と述べた。SMBCニューヨークのアナリストは、「雇用が底堅い中でインフレが低下するという理想的な展開」とコメントした。
JPモルガン・ウェルス・マネージメントのストラテジストは2日付の顧客メモで、「雲行きが怪しかった春の後、6月は開花でスタートした」といまの株式市場を表現した。半導体大手エヌビディアは年初から175%上昇し、アップル、アルファベット、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コムに続き時価総額が非常に大きい1兆ドル(約140兆円)倶楽部入りしたと特記。ネットフリックスの利用者が100万人を超えるのに3年半かかったのに対し、「チャットGPT」はわずか5日で達成したと指摘、「生成AI(人工知能)は本物」とコメントした。ゴールドマン・サックスは、2日のメモでAIに関するビル・ゲイツ氏とアナリストとの対談を紹介、AI関連株はS&P500のパフォーマンスを大きく上回っていると記した。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は4日、ヘッジファンドとその他投機筋のS&P500に対する弱気ポジションが2007年以降で最大になったと報じた。同時にナスダック上場企業の金融を除く時価総額上位銘柄で構成されるナスダック100の上昇に備えているとしている。S&P500は年初から12%上昇したが、大型テクノロジー7銘柄を除くと指数は5月末時点でマイナスになると伝えた。プロの投資家が、株全体には悲観的、エヌビディアやテスラなどハイテク銘柄には楽観的であることを示唆している。
債務上限問題が解決し、市場の関心はFRBの金融政策に移った。連邦公開市場委員会(FOMC)を13~14日に控え、パウエル議長を含めたFRB高官が金融政策に関する発言を控える「ブラックアウト」期間入り。FRBが市場の織り込みを調整できない期間と言える。最近副議長に指名されたFRBのジェファーソン理事は5月31日の講演で、6月のFOMCで金利据え置きに傾いていることを示唆した上で、「多くのデータを確認し追加引き締めの程度について判断できる」と述べた。FRB担当のウォール・ストリート・ジャーナルのニック・ティミラオス記者は、ジェファーソン理事らの発言を引用し、FRBは6月に利上げを見送り、夏終盤に再び利上げする準備をはじめたと解説した。
米金利先物の値動きから市場の利上げ織り込み度合いを算出する「フェドウォッチ」は、FRB高官発言など受け「6月スキップ」確率が1週間前の約36%から約75%に跳ね上がった。雇用統計発表後も変化はなかった。フィナンシャル・タイムズ紙は、FRBは6月会合で利上げを見送ると予想されるが、強い雇用統計を受け夏に追加利上げする圧力が高まったと報じた。ブラックアウトという暗中模索の時期。投資家はフェドウォッチやエコノミストの観測に揺らされる可能性がありそうだ。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。