【日経QUICKニュース(NQN) 三好理穂】外国為替市場でトルコリラが歴史的な下落に見舞われている。対ドルでも対円でも連日で過去最安値を更新しており、特に対円は2021年末の安値を下回り、今週1リラ=5円台と未踏の領域に入ってきた。トルコの大統領選に勝利したエルドアン氏の下で、中央銀行が「伝統的」な金融政策へ転換できるのか、金融市場で疑念が広がる。急落劇を目の当たりにする日本の外国為替証拠金取引(FX)投資家も慎重姿勢を強めているようだ。
リラは7日、対ドルで1ドル=21リラ台から23リラ台まで急落した。対円も1リラ=6.3円台から5.9円台へ下落した。トルコの当局が、コスト負担の大きい通貨防衛策を停止したと伝わったのがきっかけだ。米ブルームバーグ通信は7日、新政権の財務相に就任したシムシェキ氏が「中央銀行に対し、国営銀行を通じた為替市場への介入を緩和するよう要請した」と伝えた。
為替介入の支えを失えばリラ相場の下落は加速する。ブルームバーグ通信は「1日のリラの下落率が6%を超える場合には、(トルコの)財務省はドル売りの再開を容認した」と報じたが、その後もリラは下値模索が続く。
根本的なリラ安要因は「実質金利が大幅なマイナスとなっている点」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏)だ。トルコの消費者物価指数(CPI)の上昇率は鈍化傾向にはあるが、5月でも前年同月比で39.6%上昇となお高い。政策金利は8.50%なので、単純計算だと実質金利のマイナス幅は30%を超えている。
インフレ抑制へは光明も差し始めてはいる。新財務相のシムシェキ氏と、中央銀行総裁への就任が9日に明らかになったエルカン氏は、ともに欧米金融機関での勤務経験があり、金融市場への理解が深いと受け止められている。インフレ抑制には利上げという「伝統的」な金融政策への回帰が見込まれている。複数の外資系金融機関は今月22日のトルコ中銀の金融政策決定会合か、場合によってはその前にも大幅な利上げに動くと予想している。
三菱モルガンの植野氏は、エルドアン大統領は過去にもリラ安抑制へ利上げを認める場面があったため「今回も大幅利上げが決まる可能性はある。そうなれば買い戻しで短期的にはリラ安にブレーキがかかる」とみる。ただ、その持続性には疑問符がつくという。エルドアン氏は中銀総裁の更迭を繰り返してきた過去があり、利上げを継続するような中銀総裁の起用をいつまで我慢できるかは怪しいためだ。
日本のFX投資家も、リラには一段と慎重な姿勢になっているようだ。外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏は、一部の個人投資家の動向について「大統領選の結果が出る前に、エルドアン氏敗北を前提にリラを買ってしまっていた」と指摘する。その反動で、7日の急落に伴うロスカット(損失確定の決済)を迫られたようだ。
外為どっとコムが公表する顧客のリラ買い・ドル売り比率も低下傾向にある。金利差から得られる収益「スワップポイント」を目的にリラを買い持ちにしていた個人も、方針転換を余儀なくされているようだ。目先的には利上げ予想が増えているが「期待だけで買える通貨ではないという認識になっている」(外為どっとコム総研の神田氏)
かつては高金利や経済の高成長への期待から、日本人の間でリラ建て債への投資は人気だった。15年ほど前に1リラ=80円を超えていた姿は、もはや見る影もない。