【日経QUICKニュース(NQN)寺川秋花】北海道を除くすべての地域で梅雨に入り、夏が近づく。昨年は東京都心で猛暑日が過去最多となるなど、記録的な暑さとなった。気象庁によると今年も6~8月の気温は平年並みか高くなると見込まれる。暑い季節に需要が高まる物のひとつがアイスクリームだが、その価格には上昇圧力が一段と強まっている。
「アイスクリームの値上げ自体は珍しいことではない。ただ、2022年以降の値上げ幅の大きさ、速さの程度は珍しい(水準だ)」。帝国データバンクで食品会社の価格改定動向を調査する飯島大介氏はこう話す。日銀がまとめる企業物価指数(20年平均=100)で個別にアイスクリームをみると、直近5月は108.6と前年同月比で9.2%上昇した。過去12カ月の移動平均でみても同5.3%高い。
総務省が発表した5月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)でも、アイスクリームは同9.0%上昇した。明治ホールディングス(2269)傘下の明治は5月29日発売分から「明治 エッセル スーパーカップ ミニ 超バニラ」(6個入り、希望小売価格480円)で、価格はそのままに1個あたりの容量を90ミリリットルから80ミリリットルに変更し、実質値上げに踏み切った。同社は22年に21品のアイスクリームを値上げした。「油脂や砂糖などが高かった」(広報担当者)と説明する。
原材料など生産や販売にかかるコストが膨らみ、小売価格への費用転嫁も進む。砂糖の原料である粗糖は、国際指標となるニューヨーク先物(期近)の12日終値が1ポンド25.47セントだった。4月下旬には一時1ポンド27.41セントと、およそ11年半ぶりの高値をつけていた。生乳の販売価格(乳価)も上昇基調で、農林水産省によると直近4月で1キログラムあたり106.6円と、前年同月比で6%超上昇。製造に必要なヒマワリ油やパーム油といった植物油脂も、ロシアによるウクライナ侵攻などを背景に価格水準が切り上がった。
製造工程から店頭に並ぶまで冷やし続けるための費用も、上昇傾向が続く。日銀がまとめた5月の企業物価指数で、「電力・都市ガス・水道」は前年同月比で13.1%上昇した。帝国データバンクは食品主要195社を対象とした6月の価格改定動向調査で、原材料価格の上昇分については価格転嫁が一巡した傾向がみられるとしたうえで「電気・ガス代が新たな値上げ圧力として(食品に)広がる」との見通しを示す。
値上がりにもかかわらず、今のところ消費者の需要は衰えていない。全国のスーパーの販売データを集めた日経POS(販売時点情報管理)情報のデータによると、1000人あたりの販売個数(12カ月移動平均)は4月に前年同月比で0.2%減だった。新型コロナウイルス禍前の19年同月と比べると10.2%増だった。販売数量はここ3~4年増加傾向で、足元でも高止まっている状況だ。
アイスクリームは風味を楽しむ嗜好品で、栄養摂取に必須の食品ではない。食品全般での度重なる値上げに「ついていけない消費者の『値上げ疲れ』『生活防衛』志向が鮮明」(帝国データバンクの飯島氏)との指摘もある。近年はコロナ禍による在宅時間の増加がアイスクリームの需要を押し上げた面もあったが、値上げの終わりがみえないなか、この先も消費者の需要をつなぎ留めることができるか。企業と家計のせめぎ合いは続きそうだ。