米国人のほとんどは住宅ローンを30年物固定金利で借りる。30年かけて完済する人はまれで、自宅を買い替える際に繰り上げ返済する。不動産情報レッドフィンによると、9月時点のローン返済額の平均は月2612ドル(約39万1800円)。5月につけた過去最高額とほぼ並んだが、あくまでも全米の平均。ロサンゼルスでは、借入額が50万ドルを大幅に超える人が多いので支払額は高額になる。4年前に住宅を購入した友人の1人は 元本と金利を合わせて月3000ドル強を毎月支払っている。金融機関が代行して納める固定資産税を加えると支払額は月4000ドル(約60万円)を超える。
友人が借りたローンの金利は3%を少し超えた水準。ダウ・ジョーンズのデータによると9月29日時点の30年物固定金利は7.9%と倍以上。現在の水準で単純計算すると友人の月負担は20万円以上増えるので、いまだったら買えないと友人は話す。ローン金利の大幅上昇を背景に、低い金利で購入した住宅を手放し、高い金利で買い替える人は当然ながら少ない。供給不足で米国の住宅販売のほとんどを占める中古住宅販売件数の低迷が続く。物件が少ないため価格は高止まり、もしくは上昇した。
米大手銀行のローン・オフィサー(融資担当者)によると、米国の住宅ローン金利は米10年物国債利回りとほぼ連動して毎日変わる。大雑把にいうと、利回りに3%程度を加えた水準が住宅ローン30年物固定金利になる。米10年物国債利回りは9月28日の米債券市場で4.688%まで上昇。CNBCは、2007年10月15日につけた4.719%以来の高水準と報じた。米連邦準備理事会(FRB)の重視するインフレ指標であるPCE(個人消費支出)物価指数の伸びが鈍化したことを受け、翌29日の取引で4.57%台に低下したものの、年初には誰も予想しなかった高い水準だ。
米10年物国債利回りがさらに上昇するとの見方は少なくない。ブルームバーグ通信によると、米資産運用大手ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は9月29日、ベルリンのフォーラムで、深く根付いたインフレを理由に、米10年物国債利回りは5%以上になるだろうと述べた。米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、9月26日に掲載されたインド紙のインタビューで、FRBの政策金利が7%に達する最悪シナリオを警告した。政策金利の上昇期待は米国債利回りを押し上げる。住宅ローン金利が8%を超える日は遠くないかもしれない。
ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授は、米ニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、年初の最大の懸念はインフレだったが、いまは金利だと指摘。債券市場は経済指標と高い金利に過剰反応しており一時的現象と自身は考えるが、高金利が「ニューノーマル」になる可能性があり様子をみなければならないと主張した。米経済番組FOXビジネスは、高金利は米国人が直面する新たな現実かもしれないと解説した。住宅ローン負担増やクレジットカードの負債増で米国の消費者が「ピンチ」を感じていると伝えた。
JPモルガン・チェースが超富裕層を対象に6カ月定期預金に年6%の金利を提供することが話題になった。ゴールドマン・サックス傘下のネット銀行「マーカス」の500ドル(約7万5000円)以上預けた顧客に適用する1年物定期預金金利は1日時点で5.10%。アメリカン・エキスプレスのセービングアカウント(貯蓄口座)に預けると、金額に関わりなく金利4.30%がつく。貯蓄大国の日本で資産運用の話題が増えている一方、投資大国の米国で銀行預金への関心が高まっている。ニューノーマルといえそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。