米ハワイ州オアフ島。東京の友人に誘われ5年ぶりに訪れた。ワイキキビーチ沿いのカラカウア通りを歩く人の少なさに驚き、かつて非常に目立った日本人が消えたのに衝撃を受けた。日本の企業が手配したワイキキとアラモアナ・ショッピングモールの間を往復するトロリーバスの乗客はゼロ。ワイキキビーチで日光浴やサーフィンを楽しむほぼ全員は米国本土からの観光客だった。たまに見かける日本人観光客はシニア世代ばかり。若い日本人はいなくなった。
ハワイ州観光局によると、今年8月末までにハワイを訪れた渡航者数は667万人。新型コロナウイルス流行前の2019年の同期と比べ6.0%少ない。米西海岸からの渡航者は2019年比で11.5%増えた一方、日本人観光客は103万人と67.8%減った。日本人観光客の減少がハワイ経済の打撃になっている可能性がありそうだ。
日本人観光客の1日あたり支出は236ドルで2019年とほぼ同じ水準。日銀の統計によると、2019年の円の中心相場は1ドル=108円99銭。今年8月31日は146円07銭だったので、円の価値は約25%下がった。円ベースで支出は大きく増え、日本人観光客の余裕はなくなった。シャネルやエルメスなど高級ブランド店に日本人客はなく、高級レストランで日本語メニューの使用頻度が大幅に減った。
ハワイの物価は高い。個人的な印象では、ハワイ産のパイナップルや卵など一部を除くとロサンゼルスより3割ほど高い。食品をはじめ多くをロサンゼルスから運んでいるので運賃が上乗せされる。ハワイで最も歴史があるホテル、モアナサーフライダーの朝食はチップ込みで1人あたり50ドルを超えた。円換算で約7500円と日本人には非常に高く感じる。海外に渡航した日本人の多くは日本の沈下と感じるかもしれないと思った。
ハワイに行こうと決めた理由には応援の気持ちもあった。マウイ島ラハイナで発生した火災に誰もが衝撃を受けた。AP通信によると、火災の死者数は当初発表の115人から97人に減少した。混乱からDNA鑑定の重複があった。犠牲者は減ったが、心の痛みは癒されていない。マウイを訪れる観光客は激減。「ハワイ旅行を続けることが最大の支援だ」と州高官が述べたとCNNが報じた。ハワイに行きたい日本人はいまも多いと聞くが、予算を考えると躊躇するに違いない。
友人が利用したホノルル便のビジネスクラスは満席だった一方、エコノミークラスは空席の方が多かったらしい。ハワイの不動産仲介業者によると、日本の富裕層はいまもワイキキやアラモアナ周辺の高級コンドミニアムを積極的に購入している。ワイキキの高級寿司店はいまも予約がとれない。ハワイは富裕層の日本人しか行けない遠い観光地になったのかもしれない。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。