民主党政権下で株価上昇
秋の米大統領選挙に向けた候補者選びはマーケットでも注目の的だ。事実上、民主党の現職バイデン大統領に対し、現時点ではトランプ前大統領を最有力とする共和党候補が挑戦する形となりそうだ。民主・共和候補のどちらが勝てば、株式相場にとって、よりプラスになるのだろうか。
伝統的には、株式市場は民主党よりも共和党を好むといわれてきた。経営者や証券トレーダーの多くは共和党の支持者で、共和党の政策の多くは株価や資産形成に有利だと受け止められてきたからだ。民主党は逆にキャピタルゲイン(株式売却益)や配当への課税軽減に後ろ向きで、規制の強化や所得の再配分に前向きだとされてきた。しかし実際には、株式相場は共和党よりも民主党の政権下で上昇してきた。
米ペンシルベニア大学のジェレミー・シーゲル教授は著書「株式投資」で、日本でいえば明治時代の半ばにあたる1888年にグローバー・クリーブランドが大統領に就任して以来、それぞれの政権下におけるダウ工業株30種平均の動きを分析している(図1)。株価の下げが最もきつかったのは、大恐慌に直撃された共和党のハーバート・フーバー政権下だ。一方、経済に盛んに介入するニューディール政策が経営者や証券トレーダーの間で評判の悪かった民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領の在任期間には、株価はそれほど悪くない動きをしている。
近年は民主党政権下で株価が上昇している。共和党および民主党政権下での株価の名目と実質(物価上昇率を考慮)の利回りを計算すると、1888年以降、株式の利回りは名目では民主党政権下のほうが高いが、共和党政権下のほうが物価上昇率は低いため、実質の利回りはほぼ互角となっている。しかし第二次世界大戦後の1952年以降でみると、物価調整の有無にかかわらず、共和党政権下よりも民主党政権下のほうがはるかにパフォーマンスがよい(表)。
ただし、「民主党政権下では株価が上昇しやすい」という相関関係があるからといって、「民主党政権だから株価が上昇しやすい」という因果関係があるとは限らない。単なる偶然かもしれないのだ。
予期せぬ事態、株価に波乱も
大統領の職に関する懸念は、株価を押し下げる要因になる。大統領に関連した予期せぬ事態があると、株価はほとんどいつも下落で反応する。1955年9月26日にアイゼンハワー大統領の心臓発作を受けて、ダウ平均は戦後7番目の下げとなる6.54%下落を記録した。この株価急落は、「アイク」の愛称で呼ばれた同大統領の人気のほどを示している。第二次世界大戦終結からまもない時期、アイゼンハワー政権下で株式相場は大きく上昇した。
ケネディ大統領が暗殺された1963年11月22日金曜日にダウ平均は2.9%下げ、ニューヨーク証券取引所はろうばい売りを防ぐために取引終了時刻を通常より2時間繰り上げた。取引はケネディの葬儀が行われた25日月曜日も停止された。しかし翌26日火曜日に取引が再開されたときには、副大統領から昇格したリンドン・ジョンソンの大統領就任を好感し、株価は1日の上げとしては戦後最大級である4.5%の上昇を記録した。
1901年9月14日にウィリアム・マッキンリーが射殺されたとき、株価の下げは4%を超えたが、翌日にはこの下落分をすべて戻している。1923年のウォーレン・ハーディングの死後も、下げ幅は小さかったが株価は下落した。この場合も株価はすぐに元の水準に戻った。「このような局面での株価下落は、実は投資家にとって絶好の買いを入れる機会である。新たな大統領が就任すれば、たいてい株価は急速に元の水準に戻るからだ」とシーゲル氏は指摘する。
ただし1945年4月、フランクリン・ルーズベルト大統領の死去が報じられた週、株価は4%以上上昇した。同大統領は課税強化などで投資家から嫌われていた。
バイデン氏再選、株高持続がカギ
日経平均株価が史上最高値圏にあった1989年前後以降、最近までの各大統領について、経済と株価の動きを簡単に振り返ってみよう(カッコ内は政党、任期、ダウ騰落率。図2)。
ロナルド・レーガン(共和、1981~89年、131%上昇) ダウ平均が初めて1000ドルの節目に達したのは1972年。その後10年以上その水準で推移したが、レーガン大統領在任中の1982年12月にその水準をクリアした。1987年10月に508ドルという暴落(ブラックマンデー)を記録したにもかかわらず、レーガン政権下でダウは2倍以上に上昇した。大規模な減税の一方でソ連を屈服させるため国防費を増やし、財政赤字が拡大した。
ジョージ・H・W・ブッシュ(共和、1989~93年、45%上昇) ブッシュ(父)。就任1年目に景気と株価は上向いたが、その後、貯蓄貸付組合(S&L)危機と湾岸戦争が起こった。イラクがクウェートに侵攻した後、石油価格は2倍以上に跳ね上がった。成長率は鈍化し、米経済は1990年7月に穏やかな景気後退に陥った。景気後退は1991年3月に終わったが、回復は不安定だった。経済の低迷は1992年の敗北につながった。
ビル・クリントン(民主、1993~2001年、225%上昇) リベラル色を弱めて中道路線を打ち出し、福祉改革など政府支出の削減に取り組んだ。在任中、米国は長期の経済成長を享受し、ダウ平均は5000ドルと1万ドルの節目を突破する。ダウ平均は任期中に3倍強になり、最近の大統領では突出している。成長企業の多いナスダック市場はインターネット・バブルに沸き、莫大な富を生み出したが、その多くはバブルが弾けるにつれて消えていった。
ジョージ・W・ブッシュ(共和、2001~09年、22%下落) ブッシュ(子)。レーガン以降、今のところ任期中に株価が下落した唯一の大統領。インターネット・バブルの崩壊を引き継ぎ、それが2001年の景気後退を生み出した。景気後退は同年9月11日の米同時多発テロ事件によってさらに深まった。2004〜05年には低金利と住宅ブームに後押しされ、成長が一時勢いを増したが、2008年のリーマン・ショックでまたしてもバブルが弾けた。
バラク・オバマ(民主、2009~17年、138%上昇) 大統領就任から数カ月、リーマン・ショックの余波が続いた。ブッシュ前政権で成立した、公的資金を投じての金融機関救済を進める。米連邦準備理事会(FRB)はバーナンキ議長の下、金融危機の回避と景気回復を狙ってゼロ金利や量的緩和など前代未聞の金融緩和を続け、これによって株価は急騰した。
ドナルド・トランプ(共和、2017~21年、56%上昇) 実業家出身の大統領による減税、規制緩和、インフラ支出といった親ビジネス政策を投資家は歓迎し、株価は好スタートを切った。2018年後半に中国との貿易戦争で一時停滞し、2020年初めに新型コロナウイルス感染症の拡大で暴落する。各州の自宅待機命令や企業の操業停止が響いた。その後はFRBによる金融緩和をテコに株価は持ち直した。
ジョー・バイデン(民主、2021年〜現在、24年1月末まで22%上昇) トランプ前大統領に比べ株式市場に関心が薄いとみられていたが、2021年に株価は順調に上昇。ところが22年には物価高騰を受けてパウエルFRB議長が大幅な利上げに踏み切り、株価は下落した。23年は地方銀行の経営破綻で金融危機が懸念されたが、FRBの緊急融資の発動でひとまず落ち着く。その後は利下げへの期待を背景にダウ平均は再び上昇し、年末から24年1~2月にかけて史上最高値を更新する展開となっている。この株高を持続できるかどうかは、再選を左右するカギにもなりそうだ。