【QUICK Money World 荒木 朋】日経平均株価がついにバブル経済期の1989年末につけた3万8915円を上回り、史上最高値を更新しました。日経平均は4万円を目指し、いずれ10万円に達するとの声も出ています。株高を背景に、日本では金融資産を1億円以上保有する「富裕層」が増えており、株式などの資産運用で経済的に自立し、早期に仕事をリタイアして豊かな生活を送る「FIRE」の実現を夢見る人も多くなっています。
FIREを目指し、働きながら資産運用を実践していくうえでお勧めしたいのが、最初に実現したいゴール(目標)を具体化・明確化し、そこから逆算して資産運用を実践する「ゴールベースアプローチ」という手法です。本記事では、将来のFIRE実現を夢見る社会人3年目で年収400万円程度のKさんを例にとり、ゴールベースアプローチを使った運用計画をシミュレーションしていきます。
【相談内容】会社員のKさんは25歳の男性。大学を卒業し、一般企業に就職し、社会人生活はもうすぐ丸3年になります。Kさんは両親、妹の4人で、都内の戸建て住宅(両親の持ち家)で同居しています。Kさんの年収は現在400万円程度で、手取りは約300万円。家族の生活費の一部を負担しても、経済的には余裕を持って生活しています。いろいろな趣味はあるものの、もともと倹約的な性格とあって、社会人生活3年で200万円の貯蓄があります。 |
■FIREを実現する「4%ルール」とは?
「FIRE」とは、「Financial Independence, Retire Early」を略した造語で、「経済的自立」と「早期リタイア」を意味し、定年を待たずに退職(リタイア)し、資産運用で生活していく人のことを指します。何となくお金持ちだけがFIREを目指せるイメージを抱きがちですが、若いうちから資産運用を始めればFIREを実現することは決して夢物語ではありません。
FIREの実現を目指すうえでの条件の1つとして、「4%ルールと25倍の法則(以下、4%ルール)」という考え方があります。これは、年間の生活費(年間支出)の25年分の資産を築き上げた後は、その資産を年率4%で運用していけば運用資産の総額を減らすことなく生活費を賄えるという考え方です。
仮に年間支出が200万円とすればFIREに必要な資産額は5000万円(=200万円×25年分)、300万円の場合は7500万円(=300万円×25年分)、400万円なら1億円(=400万円×25年分)という具合です。7500万円の資産を築いた場合、その後、年率4%で毎年運用できれば300万円(=7500万円×4%)の運用益を得られるため、理論上、運用資産(7500万円)をほぼ減らず、仕事に就かなくても生活していけるというわけです。
4%ルールの由来は、米株式市場の代表的な株価指数であるS&P500種株価指数が長期的に年平均7%で上昇し、その間の物価上昇率が年平均3%だったことを根拠に、米国株に投資すれば物価上昇率を除いた年率4%の利回りが得られるとの考えに基づいたものです。4%ルールの条件を日本に当てはめることが妥当なのか議論の余地はありますが、それはさておいて1つの目安にはなりそうです。
FIREを実現するために「最初に資金目標額と達成時期を明確化して資産運用を実践し、その築き上げた資産を年率4%で運用して増えた分を取り崩して生活費に充てる」「生活費として一部資金を取り崩しても、資産運用で資産寿命を延ばしていく」というのはゴールベースアプローチの考え方そのものといえます。
■年収手取り額300万円でもFIREは可能?
社会人生活3年目となるKさんは現在25歳です。最近、雑誌などの特集で目にするようになったFIREに興味を持ち、その実現に向けて計画を立てられないか考えるようになりました。Kさんの年収は約400万円、所得税や住民税、社会保険料などを除いた手取り額は約300万円です。
国税庁が公表した2022年の民間給与実態統計調査によると、年齢階層別で「25~29歳」の平均給与は男性が420万円、女性は349万円、合計は389万円となっています。所得税や住民税、社会保険料などを除いた手取り給与額は一般的に額面の75~85%といわれており、Kさんの年収および手取り額は平均的な数字といえます。
現在25歳のKさんはFIREを目指す時期として、一般的な企業で早期退職制度の主な対象年齢となる「40~50代」をターゲットにし、20年後の45歳を目標にすることを決めました。
ちなみに、厚生労働省が2023年に公表した「就労条件総合調査」によると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の「勤続20年以上かつ45歳以上の退職者」の退職給付額は、退職事由が「定年」の場合は1人平均で1896万円、早期優遇適用の場合は2266万円となっています。仮にFIREに踏み切った後に不測の事態に陥った場合でも、あてにできる資金が確保できそうなこともKさんのFIREへの気持ちを後押ししました。
KさんはFIRE後の年間支出想定額を現在の手取り額である300万円とし、この先、結婚や子どもの誕生などのライフイベントがあった場合はその都度見直すことにしました。そのため、FIRE実現に必要となる資産総額は「4%ルール」にならって7500万円(=300万円×25年分)となります。従って、早期退職を考えている45歳までの20年間で7500万円の資産を貯めることを目標に運用を行うことにしました。資産運用における想定利回りはFIRE生活の前提となる4%以上とします。
果たして年収400万円、手取り額300万円のKさんはFIREを実現することはできるのでしょうか。以上に挙げた条件でゴールベースアプローチの考えをもとに運用計画を立ててみましょう。
■ゴールベースアプローチの運用計画を具体的に当てはめよう!
ゴールベースアプローチでは、①ゴールの設定・明確化、②ゴールに向けたプラン策定、③資産運用方法の選択・実行、④定期的な確認――という流れで計画・実践していきます。
▼関連記事 |
Kさんのケースを当てはめると、①ゴールの設定・明確化は、「45歳までの20年間でFIRE実現に必要な資金7500万円を準備する」です。
②ゴールに向けたプラン策定では、「現在の年間の手取り額300万円のうち、140万円を自分自身および同居する家族の生活費として使い、残りの160万円を資産運用の資金に充てる。貯金の200万円を初期資金として、毎月10万円、ボーナス月は30万円を投資信託で運用しながら20年後に7500万円を確保する」となります。
③資産運用方法の選択・実行では、「資産運用における想定利回りはFIRE生活の前提となる4%以上とする。また、資産運用の開始時期が20代と若いため、ある程度のリスクを取りながら積極的なリターンを追求する投資信託で運用する」ことにしました。
まずは、現時点の25歳時における収入を前提に20年間同じ金額を資産運用に充てる場合を考えます。次に、社会人経験を積むのに合わせて昇給することが想定されるため、給与収入の増加に合わせて毎月の積立額を増やすケースについてもシミュレーションしてみます。
■FIRE実現に向けて①現在の収入を前提にシミュレーション!
Kさんは20年後の45歳で早期退職制度を利用し、そのうえで4%ルールにのっとり資産運用で7500万円を確保し、FIREを実現する計画を立てています。初期資金はこれまでの貯金で貯めた200万円で、その後、毎月10万円、ボーナス月は30万円の合計160万円を積み立てながら運用していく考えです。
ある程度リスクを取って積極的に運用する投資信託への投資により、仮に年平均リターン4%で運用したとすれば、Kさんが達成目標とする20年後の資産総額は約5280万円となりました。この場合、目標額には2220万円の不足となります。年率4%で運用した場合の目標額に達するのは25年6カ月後になり、FIRE実現には5年強の後ろ倒しを強いられる計算となりました。
45歳で早期退職制度を利用し、平均的な退職金が2266万円得られることを考慮すれば、資産運用で積み上げた約5280万円と合わせて目標額の7500万円に達する計算です。ただ、退職金については先行きの生活における不測の事態に備えた資金として確保しておきたいとすれば、何かしら別の対策を考えたいところです。
年率7%のリターンで運用できれば、20年後の資産総額は目標とする7500万円に達する計算となります。ただ、高いリターンを求めるとリスクも相応に大きくなることを考えれば、7%の利回りを前提に運用計画を立てるのは得策ではありません。
■FIRE実現に向けて②昇給を前提にミューレション!
それでは、次に勤続年数に応じて毎年安定的に給与が上がる定期昇給が主流となっている日本の給与制度を鑑み、給与収入の増加に合わせて毎月の積立額を増やすケースを想定してシミュレーションしていきます。
Kさんは初期資金が200万円、毎月の積立額が10万円、ボーナス月は30万円(年合計160万円)を積み立てて運用していますが、これを6年目に毎月15万円、ボーナス月40万円(年合計230万円)、11年目には毎月20万円、ボーナス月50万円(年合計300万円)に積立額を増額した場合、年平均4%リターンで運用できたとすると、20年後の資産総額は約7600万円となりました。計算上は、Kさんの目標額を達成できる見込みです。
このシミュレーションでは、6年目以降の資産運用における毎月の負担額はそれなりに大きく、Kさんのような両親家族と同居して生活費の負担が相応に軽減されるなどの要件がないと厳しいようにもみえます。ただ、昇給に応じて少しでも積立額を増やして運用していくことで、目標額達成に近づくことが可能になります。
仮に目標の7500万円に到達しなくても、退職時に支給される退職金を一部活用するという選択肢もあります。もしくは、退職後にアルバイトをしたり副業したりして運用益と仕事の2つの収入で生活する「サイドFIRE」という選択肢を使えば、より現実的なFIREが可能になると考えられます。
■まとめ
FIREを目指すには、その達成時期や達成に必要な金額を前もって分析・数値化し、ゴール実現に向けて適切な運用計画を立てるとともに運用を実践することが欠かせません。そのためにも、目標達成への資産運用の道筋を明確にするゴールベースアプローチという運用手法をぜひ活用してみてください。