「大学にかかる費用はもうすぐ年10万ドル(約1516万円)」。ニューヨーク・タイムズ紙が米国の教育費の高騰を詳しく報じた。テネシー州ナッシュビルの私立名門校バンダービルト大学は、授業料や寮費など全て含んだ年間費用が9万8426ドル(約1492万円)と手紙で学生に通知したとしている。大学進学のコストパフォーマンスを考え配管工になるZ世代が多いとの報道に驚きはない。学費を含むサービス価格の上昇は家計の頭痛の種だ。1月と2月の統計は米国のインフレが根強いことを示唆。インフレが長期化するとの恐怖が一般家庭だけではなく、金融政策当局や市場にじわり拡大した可能性がある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中央銀行と投資家が試練に直面したと解説した。
第2四半期(4~6月)第1週。米株式市場のボラティリティーが高まった。4日の取引で主要株価指数は大幅下落。イスラエル首相のタカ派発言も影響したが、市場心理を最も悪化させたのはミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁だ。値動きチャートで確認すると、発言が速報された後に指数が急落していた。ビジネス向けSNSのリンクトイン主催のバーチャルイベントで、「インフレの横ばいが続くようであれば、利下げが必要か疑問になる」と述べた。カシュカリ総裁は今年の米連邦公開市場委員会(FOMC)の投票メンバーではないが、影響は非常に大きかった。
強弱感に多少差がある程度だった米連邦準備理事会(FRB)高官のタカ派とハト派の見解はここにきて衝突しているようにみえる。タカ派として知られるウォラー理事は、最近の物価統計は期待外れで利下げを先送りするのが適切と主張。ボウマン理事は、インフレ鈍化が止まれば、利上げが必要になるかもしれないと語った。ハト派のシカゴ地区連銀のグールズビー総裁は、全体のインフレ減速の軌道は変わっていないと述べ、利下げ見通しに変更がないと示唆。サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は「年内3回の利下げは妥当」と発言。影響力のあるパウエル議長は、利下げする余地があるとの認識を示した。
FRB高官の一部のタカ派発言を大手金融機関は慎重にみている。ゴールドマン・サックスのハチウス・チーフエコノミストは、CNBCのインタビューで、FRBが利下げを今年見送ったら「非常にサプライズだ」と述べた。モルガン・スタンレーのゼントナー・チーフエコノミストは、ブルームバーグTVのインタビューで、FRBは6月利下げの方向と語った。
米金利先物の値動きからFRB政策を予想する「FEDウォッチ」の先週末時点の6月利下げ確率は約5割と、1カ月前の57%から下がった。年内利下げ織り込み回数は2回と3回の確率がほぼ同じ水準。少し前は3回だった。フィナンシャル・タイムズ紙は、米国の投資家が見込むFRB利下げ回数が3回未満になり、FRBよりタカ派になったと報じた。5日付コラムでは、FRBの利下げをめぐり投資家が神経質になっていると指摘。不透明感に市場が動揺、利下げの時期と規模が非常に重要になったと伝えた。
次回のFOMCは4月30日~5月1日。金利据え置きが幅広く予想されており、焦点はその次の6月11~12日の会合。6月会合後にFOMCメンバーの金利予想の分布をチャート化した「ドットプロット」の最新版も公表される。3月時点のチャート中央値は年内3回の利下げを示唆した。金融市場がFRB高官の発言に一喜一憂、インフレ関連データに敏感に反応する状況は当面続きそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。