【QUICK Money World 辰巳 華世】造船関連株に注目が集まっています。造船関連株は、海運関連株と関係性が高い銘柄です。新型コロナウイルスが流行した20年以降に海運各社の業績が上向き、株価も大きく上昇。関連する造船関連株にも関心が集まっています。今回はそんな造船関連株について、特徴や上昇する時・下落する時の傾向、今後の造船関連株の見通しについてついて紹介します。
造船関連株とは
造船関連株とは、コンテナ運搬船、タンカー等の各種船舶の製造を行ったり、造船に関連する事業やサービスを行う銘柄のことです。
船舶にはいろいろな種類があります。コンテナ船など製品輸送をする船、ドライバルク船(ばら積み船)やLNG船などエネルギー輸送や資源輸送をする船、フェリーなど旅客船、ドリルシップなど海洋資源開発の船などです。これらの船の製造を行う企業や船を作るために必要なエンジンや船舶計器や電子機器など周辺機器を作る企業も造船関連株になります。
日本はかつて世界シェア50%を誇る造船大国でした。しかし、現在のシェアは韓国・中国に次ぐ3位となっています。国土交通省によると2019年の世界の新造船建造量は約7000万総トン弱で中国のシェアが約35%で首位、次いで韓国が32%、3位が日本で24%となっています。
船を巡るビジネスでは、船舶が造船された後、船主が所有し、海運業者が運航するという傭船ビジネスの構造があります。造船所で建造された船舶は、完成すると船主が所有します。船主は自分で船舶を運行する場合もありますが、他の企業などに船舶の利用を提供することもあります。海運では、船主の船が海運業者やチャーター業者によって運用されます。船舶を運行し貨物や旅客を輸送します。メンテナンスや船員管理なども船主との契約に基づいて運用します。
日本の上場する造船関連銘柄をいくつか見てみましょう。
かつての造船銘柄でも、祖業が造船業だったIHI(7013)のほか、住友重機械工業(6302)も造船から撤退しています。
少し注意したい銘柄があります。日立造船(7004)は社名に「造船」が入っていますが、実は今は造船業は営んでおらず造船関連銘柄ではありません。20年以上前に造船業から撤退しています。現在は、ゴミ焼却施設の建設で国内最大手の会社です。日立製作所(6501)との資本関係もありません。社名が現状と大きく異なっていることもあり、同社は24年10月に「カナデビア」に商号を変更する予定であると23年9月に発表しています。
造船株が上昇するときの傾向
船を巡るビジネスでは、舶が造船された後、船主が所有し、海運業者が運行するという傭船ビジネスの構造がありそれぞれが密接に関係しています。
日本は島国なので、日本の輸出入のほとんどを海運に頼っています。海運は、国内貿易に関わるビジネスのほとんどを占めています。そのため、景気変動の影響をダイレクトに受けやすい傾向があります。
海運が活発になればそれだけ船が必要になり造船需要も高まります。造船業界の先行きを占ううえで、海運の状況を確認することは大切になります。海運の状況をチェックする指数にバルチック海運指数(BDI)と中国コンテナ船運賃指数(CCFI)があります。
バルチック海運指数は、イギリスにあるバルチック海運取引所が公表する国際的な海上運賃の指標です。一方、中国コンテナ船運賃指数は中国発のコンテナ輸送料を数値化した指標です。いずれも世界の荷動きを読む上で重要です。貿易が活発であれば景気も良好となります。これらの指標は海運株との連動性がとても高く、バルチック海運指数などが高まると海運株も上昇する傾向があります。
景気が良くなれば海運も活発になります。物流量が増えればそれだけ船の数も必要となるので好調な海運状況が続く見通しであれば造船も積極的になり造船業界にとってはプラスになります。
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船舶供給は少し特殊です。例えば、今、船が足りなくてもすぐ市場に船を供給できるわけではありません。船を作るのには数年の時間がかかります。そのため、造船発注は数年先を意識して行います。
また、造船業にとって為替の動向も業績に影響します。足元のドル・円相場は1ドル150円台と歴史的な円安水準で推移しています。円安で輸出が増えればそれだけ船舶需要が高まり造船業にとってはプラスです。円安は造船業にとって業績の底上げに繋がり、追い風となります。
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造船株が下落するときの傾向
造船株は海運市況の影響を受けます。なので、造船株が下落するときの傾向として、海運市況の悪化があります。バルチック海運指数など海運市況は一般的に景気より先行して動く傾向があります。すぐに海運株の業績に影響が出るわけではないですが、景気に対する先々の不安が広がり海運株は下落傾向になります。
景気が鈍化してくると輸出が減り船舶の需要も減少します。また、船舶供給が増加している状態だと市場に船が出過ぎて海運運賃の低下を招きます。船があまっている状態になるので積極的な造船が控えられ造船業にとってはマイナスになります。
円高は、輸出にとってはマイナスです。円高になれば輸出がしにくい傾向になり船舶需要も減退します。需要がなく船の余剰の状態になれば造船の新規発注も減ることに繋がります。
造船業界の足もとの状況と今後
造船業界の足元の受注は堅調に推移しています。鋼材高や人手不足などのマイナス要因はありますが、手持ち工事量にもゆとりがでてきている状況です。国内海運3社が共同出資するコンテナ船事業会社「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)」は、30年度までに200億ドル以上の投資、このうち100億ドル超を船舶投資にあてます。30年度まで年間15万TEU(TEUは20フィートコンテナ換算)規模の新造船投資をします。
今後の状況についても造船の建造需要は高いとの見通しがあります。国土交通省が2023年5月に公表した資料によると、「海上輸送量の増加や過去の大量に建造された船舶の代替需要等によって、各機関は、建造需要が増加していき、2030年代に1億総トン規模まで増加すると予測している」としています。2019年のデータでは7000億総トン弱の新規建造でした。
国内海運の温室効果ガス排出量のゼロ目標も造船業にとっては商機と考えられます。国際海事機関(IMO)は国際海運からの温室効果ガス排出を50年ごろまでに実質ゼロとする新たな目標を採択しています。これを受けて海運各社も既存のディーゼルエンジンの船舶を次世代エンジンの船舶へ切り替える方向で新たな造船需要が生まれています。
また、働き方改革の一貫としてトラックドライバーなどの残業時間規制が強化されることによるいわゆる「物流の2024年問題」も新たな船舶需要を創生しそうです。トラック運転手不足への対応として、トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい船舶などの利用へと輸送手段を転換する「モーダルシフト」が進むとの見通しがあります。
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造船業にとって為替の動向は業績に影響します。このところの円安で推移してきたドル円相場は、足元では150円前後と歴史的な円安で推移しています。円安は造船業にとってプラスになることが多いです。ただ、これまで円安で推移してきた為替相場が変調する可能性が高まっています。日本や米国での金融政策に変更の兆しがあるためです。日本では3月に日銀がマイナス金利解除を決めました。一方で、物価上昇が鈍化してきたことを受け米国では利下げの観測が出始めています。これまで日米金利差などを背景に進んだ円安ですが、日米の金融政策の変更で円高傾向に反転するかどうか関心が高まっています。
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まとめ
造船関連株とは、コンテナ運搬船、タンカー等の各種船舶の製造を行ったり、造船に関連する事業やサービスを行う銘柄のことです。造船業界の足元の受注は堅調に推移しています。温室効果ガス排出量のゼロ目標を背景に、既存のディーゼルエンジンの船舶を次世代エンジンの船舶へ切り替える新たな造船需要が生まれており今後も造船の建造需要は高いとの見通しがあります。為替相場の動向も気になるところです。円安で推移している為替相場が変調し円高となれば造船業にとっては収益圧迫の要因となりそうです。
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